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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十一巻 死を許されない青薔薇王子と口づけの塔の白百合姫
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第三章 妖精とお城?

 蓮さんは珍しく少し驚いたような表情をして、口ごもった。


蓮さんの冷静な説明なら、俺も受け入れてくれるはずだと思っていた……


 周りが沈黙に包まれている。スクルドの表情は固いまま。どうしたらいいのか考えていると、今度はジェーンが語り掛けていた。


「ねえ、あなたは昔の記憶は完全にないの? 答えたくないなら答えなくてもいいわ」


 スクルドは少し黙りこんだ後で小さく「少しだけ、あるみたいです。でも、ほとんどない」と言った


「そうなのね。そういう状態でいきなり色んなことを言われたら誰だって警戒するわよね。私だってこんな強そうな侍に、仲間だから来いとか言われたらためらうわよ」


 ジェーンが冗談っぽくそう言うと、ほんの少しだけスクルドの表情が軟化したようだった。


「でも、彼も嘘をついていないし、気を失っていたあなたを起こしたのは私の魔法。まあ、私達は敵ではないってこと位は分かってもらえたらありがたいかなー」


「敵では……ない……たしかに、そんな感じはしています……」


 スクルドはぼそりと呟いた。


「私は……誰かに追われていたはずだった。それに、大切な人とはぐれてしまった。だから、その人を探さなきゃいけない。でも、その人が分からない。だから……どうしたらいいか……分からない……」


 スクルド追われている? どういうことだろう。大切な人とはぐれたと言うのも、多分俺らではない気がする。


 そういえば、アカデミーで彼女は自分が孤児だったと俺に語ってくれた。もしかしたら彼女の記憶はその時の状態なのか? アカデミーに入る前の……?


 というか、体内にあったアーティファクトが失われたから、その影響なのか? 混乱しているとか、他人の記憶? とかが混ざっているとか?S


 ああ、でも駄目だ、余計な憶測で混乱させてはいけない。


 そんなことを考えていると、スクルドがいきなり立ち上がった。


「分かりました。しばらく行動を共にしましょう。介抱してくれたのに、疑ってごめんなさい」


 深々と頭を下げるスクルド。丁寧な態度は前の彼女を思い出させたけれど、やはりまだ違和感がある。


「あ、そうだ! 商人の寝床から君の持っていた物を取り出すよ。それを見たら少し思い出すかも」


 俺はそう告げると、空間から小ぶりのリュックを取り出す。スクルドは眼をまんまるにしてそれを見ていた。そりゃ、始めて見たら驚くよな……


 おずおずとそれを受け取った彼女は、リュックの中身を地面に広げて、少しずつ点検しているようだった。薬の入った小瓶、古いカバーの本、魔法のスクロール、小さな四角い物体、不思議な形の魔道具らしきもの、衣服や携帯食料……


 スクルドは小さなためいきをついた。


「私は何か任務があって、アカデミーにいたのかもしれないですね……もっとも、アカデミーなんて単語はすごい学校という認識程度で、どういう場所かはよく分からないんですけど……」


 スクルドは幾つかの道具を手にして、それらをしまっていく。独り言のように「使い方が分からない。使えるようになるのかな」と口にする。


「そういえばここはコンパスが使えないのよ。それで同行しようとか言ったけど、実はどこに行こうかなーって思っていて」


ジェーンが苦笑いをしながらそう告げた。そんなジェーンに彼女ははっきりとした口調で返す。


「じゃあ、聞いてみます」


「え? 誰に?」


 ジェーンの質問には答えず、辺りには鳥のさえずりのような声が響いた。これは、スクルドが出しているんだよな。辺りに大きな木は無いし、果実もない。鳥だって見たことがないぞ。


 でも、何か懐かしい感じが身体を包んだ。懐かしいというか……ほっぺたがくすぐったいこの感覚。いたずらをしかけてきているのは、


「妖精?」


 ぱっと、さえずりの音と共に不思議な感覚も消えてしまった。スクルドは少し嫌そうに俺を見ていた。


「駄目です。彼らを怖がらせないで」


「ご、ごめん。でも、前に見た時は妖精の姿がはっきり見えたし。それにフェアリーテイルで別の場所までワープさせてくれたんだ」


「そうなんですね。妖精が見えるなら、やはりあなたは悪い人ではないみたいです。でも、妖精だって色んな性格の子がいる。ゆっくり対話を試みるべきです」


 俺は黙り込んで、再びスクルドは鳥のさえずりのような声を出す。次第に、先程の感覚が蘇ってくる。


 やっぱり髪や頬っぺたがくすぐったいぞ……しかも姿が見えないし。いたずらされたまま耐えるのって中々大変だな……


「多分、こっち……すぐ近くにお城があるらしいです」


「近くって、何も見えないよ。それに何もない平原にいきなりお城? 村とかではなくて???」


 おれは思わずそう口に出してしまった。スクルドはそれに素っ気なく返す。


「分からない。でも、今は妖精を信じてみるしかないのかもしれません」


 そういうと、彼女はジェーンから渡された大きな白いローブを身にまとったまま、不釣り合いな小さなリュックを背負い、一人で何も目印の無い方向へ歩き出して行く。


「どうする?」と蓮さん。


「とりあえず行くしかないんじゃない?」とジェーン。


 うーん。コンパスが使えない以上、スクルドに頼るしかないのかな。ただ、俺も妖精の姿は見えていたはずなんだけれど。


 そんな疑問を飲み込み、俺達三人もスクルドの後をついて行くことになった。


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