第十七章 静かな日々、へと思いきやドラゴンからの招待状⁉
「蓮さん!! 身体は、大丈夫ですか?」
「ああ、勿論だ。ちゃんと刀を少し刺せば血が出るし、なんなら、前よりいいかもしれない。身体の一部が加速装置めいたものなのか何なのか、奇妙な感覚も覚えるのだが、気のせいかもしれない」
そこで一度言葉を切り刀を下すと、
「エドガーから聞いたが、当たり前だが、随分大変だったようだな。本当に感謝する。何かちゃんと礼をする。アポロにはパーティ内にいるからいいとして、彼女はもう里に帰ったのか? あいにく僕は里に入れないからな。何か少しでも礼をしたかった」
「あ、それなら、勾玉のお守りが欲しいと言ったので、あげて、彼女は帰りました」
びくり、としながら、俺はそんなことをくちばしっていた。
「そうか? あんなものを欲しがる子には見えなかったが。修羅の俺と同じ、いつ死んでもいいという覚悟の見えるような、少女だった。僕が今更礼を言うのも野暮か。失礼した」
祖国で裏・村正と共に、悪人を何百人と切って来たという蓮さんに見える景色と、産まれながらにしてずっと商品としての生活を送っていた彼女は、似ている部分があったのだろうか。
今の僕には、重すぎて、分からない、分かってあげることができない。
今は、アイシャと蓮さん、二人のことを繋げて考えられるほど、俺は強くなかった。
港町ロッコに戻り、また船に乗る。収穫無し、ということをぐちぐちといびる位にエドガー様は元気になっていた。でも、こころなしか、蓮さんはまだ何か心に傷がありそう。回復したにせよ、単純に両腕を失ったショックは、実力者のプライドを傷つけるには十分なのかもしれない。それとも……いや、あまり深く考えるな!
「あのさあ、こんどはもっとお気軽なクエストにしようよ! それが一番の骨休めにもなるし」俺の言葉にエドガーが近づいてきて、俺の両腕をつかむと、
「おーい!! 大金かけた遺跡で手に入れたのはアポロの翼で、今回も船のって金かけて、どっかの馬鹿が心配かけて、アポロは俺の大事なアーティファクト壊すし、クソの里は報酬くれねーし、負け続けなんだよ!!」
い、痛いっす、エドガー様……、って、俺は思い出したようにギルドリングに力を込めると、
「ああ! レベルが2上がって14だ! すごいや、こうやって成長していくんですね!」
俺が明るく言うと、エドガーも明るく、
「それにしても、遺跡のモンスターってのは強いくせに経験値がしょぼいのが多いな。今度はレッドドラゴンでも。奴らはブレスのひと吹きで広範囲に攻撃するからな。体力は遺跡の機械に比べたら、そこまでではないかもしれないが、アポロ君避けられるかなー?」
「無理無理無理です! 申し訳ございません、エドガー様!」
なんてアホな会話をしながら、船は我らがメサイア大陸に戻ってきたー。三人港町のギルドでクエストを聞いて見るが、いまいちな様子。そんなことをしている間に、なぜか他の窓口から有名人のエドガーが呼ばれる。あ、あそこ手紙とかの窓口かな?
ギルドにはお金を支払えば各ギルドに手紙を送る、保管してもらうシステムがある。ただ、もらう方も内容を把握しているとか、ゆったりした内容とかが多いらしい。まあ、今すぐ来いなんて、いつ受け取るかも分からない手紙で書けないもんなー
と、なぜかエドガーは俺と蓮さんの二人に来い、と言う。そこにあった手紙は、エドガー、鳳来蓮、アポロ、と三人の名前が書かれていて、俺は内容を読んだ。
御存じサファイア・ドラゴンと申します。貴殿らの力を借りたいのだが、如何かな?
殺し合いをするつもりはない。今の所。同じ封筒に入れた石をコンパスに入れろ。
我が本物だという証にウロコを一枚入れておく。楽しいことになるといいと思う。報酬は勿論用意させる。好待遇、千客万来、お前達が来る。メサイア大陸の中程にある、黒リンゴの森の近くだ覚えてるだろ頑張れ
「小学生の作文? 頭がおかしい人が書いたとか、誰かのイタズラ?」
しかし、エドガーは黙ってウロコを手に取る。わっ! 本当にサファイアみたいに青く光り輝く。これだけ見ると、信じてしまいそうなのだが、強いドラゴンって手下がいるとか知性がとても高いはず、それで、あんな手紙書くか?? あとエドガーだけ或いは蓮さんもならわかるけど、俺の名前までなんで知っていて、宛先に書く?
俺が疑心暗鬼で蓮さんに、こんなのイタズラですよねと話しかけようとすると、
「エドガー、行くのか?」
「ああ、行かなきゃなんねーだろ! ほんとーに、 ほんとーにめんどくせえ!!」
「分かった。では、やはり一度シェブーストに行き、旅の準備をしてから出発だな」
「そうだな。それっきゃねーか」
俺を無視して会話が進行し、ふたりともさっさとギルドから出てしまう。サファイア・ドラゴンって、何? ウロコもあるし、青いドラゴンじゃないの? 何で二人にお願いしているの? あーわからんわからんわからん!
「ちょっと待ってよ! 俺にも説明してよ!」すると、エドガーは大きなため息。
一難去ってまた一難。ゆっくり休めるのはいつの日か。でも、まあ、こんなのも、ありだよね。忙しくないと、自分が止まってしまうような気がする。ここ数日、毎日、アイシャのことを考えていた。
でも、それだけじゃダメだ。アイシャとの大切な思い出。ずっとそこにしがみついているより、ハチャメチャな冒険に出た方が、俺には合っている。一生忘れない。ただ、俺は生きているから、前に進まなきゃいけないんだ。
だから、おふたりさん、苦い顔してないで、俺にも教えて!!