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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十一巻 死を許されない青薔薇王子と口づけの塔の白百合姫
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第一章 新しい場所

 不思議な感覚。光に包まれているような、心地良い温度。バスタブや泉の中にいるような。ずっとこの状態でいたいって、そう思った。


 あれ? 俺ってあれから宿に戻ってシャワーを浴びてたっけ?


 あれから?


 全身に鳥肌が立った。でも、その恐怖をも包み込むぬくもり。これは何なんだろう?


 俺は無意識に身体をよじっていて、自分が草むらに座り込んでいることに気が付いた。辺りに目印になりそうな大きな物は何もない。緑のじゅうたんの上に、シロツメクサがぽつぽつと顔を出している。


 ここはどこだ? こんなに開けた野原は見たことが無い。大抵木々があるはずなのだが、周囲を見回しても見渡す限り背の低い草だけ。空は青空で、ここは天国っていう所なのか。


 妙な考えを打ち消そうと、空を飛んで探索をしようとして、俺はあることに気が付いてしまった。


 背中の羽がない。両手で慌てて背中を触ってみても、やはりない。翼を出し入れする方法というのを教えてもらったが、しまったおぼえはない。


俺は焦る心を抑えながら翼を出す! と身体に命令をしてみた。でも、やはりそれは何の変化も起こさなかった。何度か試してみたが、やはり無理だった。


 ここは、飛ぶことが禁じられた空間ということなのか?


 いや、違う。左手の甲にある鷹の紋章が消えている。こんなことは今までなかった。右手を見ると、太陽の紋章はあって、少しだけほっとした。


 俺は、飛ぶ力を失ったのということなのか?


 そうだ! 皆は? あの時の荒れ狂う風は? フォルセティさんは?


 答えてくれそうな人は誰もいなかった。


 何か、大きなことが起きたんだ。多分フォルセティさんやハレルヤがそれを防ごうとして、失敗をした?


 いや、俺は左手の紋章は失ってしまったが生きている。太陽の外套を失ってしまったってことを思い出す。俺に生命の危機があったことは事実で、身体がおかしくなりそうな暴風の衝撃に巻き込まれて、気が付いたら今ここにいる。


 はっとして、商人の寝床を使ってみる。中から竹の水筒を取り出すことが出来た。ほっとして水を口に含むと、少し冷静さを取り戻したような気がしてくる。アーティファクトの力は失われたわけではないんだ。


 試しに他の物も取り出してみる。仲間のリュックやバッグといった荷物を目にすると、目的はすぐに決まった。


 きっと皆近くに飛ばされているんだ。悪いことを考えたらきりがない。翼は失われてしまったけれど、仲間を早く探さなければ!!


「おーーーい!! みんなーーーーーー!! 返事をしてくれ!! 俺はアポロ!!! みんないるんだろ??? エドガー! 蓮さん! ジェーン! スクルド! グレイ!! ハレルヤ! フォルセティさん!! ギルディス! ヘラ! ルディさん!! 喜撰!!!! 誰か……返事をしてくれ……」


 俺は大声を出したが、その声は何も生みださなかった。近くに動物やモンスターもいないってことなのか? もしかして、ここは本当に天国? 俺は、死んでいて、何もない空間を彷徨うことに……


 だめだだめだ! 俺はみんなの荷物を商人の寝床にしまい、深呼吸を一つ。とにかく歩くしかない。歩いて皆を探すんだ。ずっと歩き続ければ人や村が見つかるかもしれないし。


 やれることはやって、悩むのはその後だ。


 俺は気合いを入れ直し、周囲を気にしながら歩き出して行く。長時間歩くのには慣れている。あんな大きな出来事があって、翼はないけれど足は問題なく動くようだ。


 と、多分数分しか歩いていないはずなのに、すぐに妙な物を見つけた。白いローブの人が草の上に寝そべっている。これは! 俺は慌てて駆け寄り声を上げた。


「ジェーン! ジェーンだろ!!」


 白いローブに身を包んでいたが、少し乱れた紫色の髪とセクシーな身体は間違いなく彼女だ! しかし、その赤茶色の瞳は閉じられている。


 俺の言葉に彼女は反応しなかった。まさか。


 俺は恐る恐る彼女の頬に手を当てた。少し冷たい気がしたが、死んでいるわけではないようだ。

「ジェーン、分かるか! 俺だよ、アポロだよ! 起きてくれよ!」


 俺はそう言って彼女の両肩を掴んで揺さぶる。お願いだ。起きてくれ! 返事をしてくれ! そう願いながら何度も揺さぶっていると、俺の顔に勢いよく水がかかった。


「あんたうるさいのよ!! 普通魔法が使えるならそれで静かに起こそうとか考えないわけ!?」


  ジェーンは俺を赤茶色の瞳で睨むと怒鳴りつけ、溜息を一つ。それから上半身を起こしたまま、再び瞳を閉じた。これは、瞑想しているのかな? ジェーンは黙り込んだままだ。


たしかに焦って荒々しい行動に出てしまった。これ以上怒られるのは怖いから、大人しく待つことにしよう。


  瞑想を終えたジェーンは静かに立ち上がって、俺をじっと見た。


「アポロ……よね?」


「うん。俺だよ。でも、あの時何があったのか分からなくって……俺さ、太陽の外套っていうアーティファクトを持っていたんだ。光のバリアを発生させる力があって、一度だけピンチの時に持ち主の身代わりになって壊れる。それが発動してしまったんだ。だから俺は死んでいたのかもしれない。その後はええと、世界がモノクロになった? でも俺とフォルセティさんはモノクロにはならなかった。その後でよく分からない空間にワープしたのか、幻覚を見たらしくって。そこから救ってくれたのもフォルセティさんだったはずだ。彼の手を握って、風が吹き荒れて……気が付いたらこの平原にいた……」


 俺がそう話すと、ジェーンは少し考えこむような表情をして、彼女も喋り出す。


「あの時のこと、私も正確には覚えていないかもしれない。私も世界がいきなりモノクロになったのを感じた。なんとかしようとしたのに、魔法が何も使えないの。周りのみんなもまずいってことになったけれど、どうしようもなくて。その時、目の前に人間姿のフォルセティさんがワープしてきたみたいなの。それで『ここから決して動くな!』とだけ言って、何かの裂け目みたいなのに飛び込んで行った? そうなの、目の前には黒い裂け目があった。私達は命令を守っていたけど、グレイはその中に飛び込んで行ってしまったみたい。それで、その後の記憶が無い。私も少し混乱しているかも……」

「そっかそっか……でも、ジェーンが生きていて良かった」


 俺がそう言って彼女の肩に触れる。と、また顔面に水が飛んできた。


「あんたが本物のアポロってのは分かった。でも、触り過ぎよ。それにさっき私が気絶していた時に変な所触ってないでしょうね!!」


 俺はびしょびしょになった顔を両手でぬぐう。頭に血がのぼって、自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。


「そんなわけないだろ! 緊急事態だぞ!! 俺はもう必死でだな! それで皆生きているのかも分からないし、ここがどこだかも分からないし! 不安だけどそういうのを考えたらきりがないから、とにかく前を向かなきゃいけないって思って」


「はいはい。ちょっとしたジョークだから。やっぱりここだと魔法は普通に使えるみたい。カンディを使うために集中したいから、少しそこで待ってて」


 カンディって、あれか! サファイア・ドラゴンの試練でエドガーを助けるためにジェーンが使った魔法。あの時は鉱山から生命力反応がある特殊なサファイアを探す為に使用をした。


 でも、本来の使い方は行方不明になった味方のおおまかな位置を探す為の、高位魔法らしい。これは、どうにかなるんじゃないか? さすが高位魔導士のジェーン! 張り詰めていた緊張が、良い意味で解けて行く様な気がしてきた。


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