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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第四十一章 未来のペン

俺は、自分が何か大きな存在に変化していることに気が付いた。大きな存在、何て表現すればいいのだろう。まるで自分が強大な龍や、四式朱華のような存在に変化したような……


そう、神だ。


神だという認識は、俺の存在を確かな物にした。全身にみなぎる光、力、魔力の流れ。それらは今までに感じたことが無いほどのもので、今の自分になら何でもできるような気がした。


俺は恍惚状態のまま、空中に浮いているようだった。そう、まるで俺は太陽、<アポロ>であるような気がした。


俺の左手の太陽の紋章に目をやると、穏やかな光を放っていた。それを見ると、俺は自然と自分が「そう」なのだと思った。


太陽=太陽神<アポロ>である俺は、空から地上を見下ろしていた。倒壊した建物、自然が焼き払われた跡、人々の亡骸。何があったのだろう。俺はゆっくりと地上へと降り立つ。


そこには生命と呼ばれる物は見られなかった。廃墟、死骸。敵も味方もいない空間。


ふと、何か強大な力を感じた。全身に電撃が走る。身体中がぞくぞくして止まらない。それらは俺に似ていた。彼らは、神だ。


全身をはっきりと直視することができない、眩しすぎる光。それらが俺を取り囲んでいた。敵なのか味方なのか分からない。でも、それらが放つ光、強大な何かは、太陽神である俺であっても畏怖を感じる程の物だった。

 俺は彼らに話しかけた。


「貴方達は誰なんですか?」


まばゆい光の一部が、薄っすらと弱くなってきたようだった。光は人間の形へと姿を変えていく。首元には派手な赤い首飾りをしている。恐らく男性の口元が開いた。


その時、俺は叫び声を上げていた。


恐怖、憎しみ、怒り、嘆き、絶望、様々な負の感情が一気に俺の全身に流れ込んできた。それは何なんだ? 俺の身体を蝕み、駆けまわる物。


戦争。


戦争の記録。


人が、神が、機械が、争い壊れ続ける記録。


天使の透明な羽が四散する。戦士の胸から鮮血が飛び散る。逃げ惑う子供が地割れに呑まれる。悪鬼が光の中に消え去る。修道士がデーモンに頭から食い殺される。四足歩行をする銅色の機械が雷鳴で破壊される。


止まらない殺戮の映像、記憶が俺の頭の中で止まらないで展開し続ける。今の俺の身体には光も血も感じない。ただ、戦争を見つめるだけの存在。


リッチが妙なことを言っていたが、俺が、その原因を作ったのか?


「殺せ! 殺せ! 殺せ!」


 誰かの叫び声が俺の頭の中で反響し続ける。


「殺戮の手を止めるな!! 全てを焼き尽くせ!!」


 強い憎しみ。数百数千数万、それ以上の人々の憎悪の群れが俺の身体中を駆け巡る。たまらずに俺は叫び声を上げていた。辛い苦しい熱い痛い怖い哀しい。


 しかし俺の叫びは誰にも届かない。全身を焦がすような、凄まじい痛み。


 ふと、痛みが和らいだような気がした。その時俺の周囲に目をやると、俺は何かに囲まれているようだった。人々や動物や天使や悪魔や様々な生物……並んだ二つの瞳に宿るのは、炎。


俺を見つめる無数の火。


俺が戦争の火を灯したのか?


ならば俺は責任を取って、苦しみの中で滅びるべきではないだろうか?


薄れゆく意識の中で、俺はそう思っていると、何か手に力を感じた。紋章の力ではない。そんなものは俺にはないんだ。俺はスラム街生まれ。親の顔も知らない、自称<アポロ>


スラム街で生まれて、今まで長い夢を見てきた気がする。最初にエドガーに出会って、ジェーンや蓮さんとクエストに挑んで、それから長いような短いような旅があった。


まさか自分があんな大冒険をできるなんて、ガラクタウンのスラムの誰に言っても信じないだろうな。あ、親友のレキトだけは信じてくれるかな。でも、あまりにも話がすごすぎて、俺自身信じられないよ


信じられないよ……死ぬって苦しいけれど、こうやって最後はそれなりに穏やかに、終わるんだな……


大冒険ができた。本当ならこんな体験をする前に、最初のクエストでオークやゴブリンに殺されるようなレベルの冒険者だったもんな。仲間との出会いがあったから……俺は様々な冒険が出来たんだ……後悔はしてない……


でも、やっぱりもう少しだけ、冒険をしたかったな……


「アポロ!!!!!」


 その声で俺は正気に戻った。優しくって、力強い声。俺を見つめる、深海のような美しい青い瞳。


 俺の手を握っているのは、スクルドだった。


 スクルドは俺と目が合うと、辛そうに微笑んだ。彼女の身体はまだ半身が大樹の中にあった。


「アポロ。何かを見てきたんだよね。辛い記憶もあったんだよね。でもね、私達には未来がある。私はスクルド。未来を変える力を持った運命の少女。私のアーティファクトの力を開放して、未来を書きなおして」


 スクルドはそう言うと、彼女の額から一本の羽ペンが出現した。見た目は粗末なペンだけれど、それは強大なアーテイファクト反応を放っていた。


 その時、俺は思い出していた。アーティファクトの力が宿っている時は、スクルド達三姉妹は不死身だということを。アーティファクトの力を自分の身体から取り出したなら、半身がうまったままのスクルドは……


「アポロ、私は死なないよ」


 スクルドは小首をかしげ、豊かな金髪をゆらしてそう微笑んだ。俺の前にちらついたアイシャの姿が、生まれて瞬時に消えた。


 俺はペンを手に取って、純白の書の表紙に「希望」という文字を記した。


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