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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第三十六章 エメラルド・ドラゴンと八本足の白馬

 もしかして、ハレルヤは俺のことを消そうとしている? それか、何かの能力で力を奪うつもりなのか?


 そんな怖い考えが頭をよぎるが、ハレルヤはそれ以上俺へは干渉せずに、どこかに向かって歩き出す。


「おい、いいのか。フォルセティ様はここで退避するように指示をされたんだ。勝手にどこかへ行くなんて……」


「その指示を受けているハレルヤが移動してるからいいだろ。俺らも行くぞ」


 グレイの生真面目な態度に、エドガーが軽口を放ち、ハレルヤの後を追う。俺はジェーンと顔を見合すが、ジェーンも少し困り顔だ。


 でも、自然と俺達はハレルヤを先頭にして歩き出しており、向かっている先は、おそらくフォルセティさんのいる場所らしい。


 モノクロの景色も戻った。不思議と砂漠のうだるような暑さもほとんど感じない。フォルセティさんの力で、あの朱金の天人……いや、プロメテウスを封印したと考えていいのだろうか。


 プロメテウス……俺は彼のことがもっと知りたかった。彼と話がしたかった。でも、ハレルヤがそれを妨害した。


 アカデミーの学長のルディさんが、俺の力を警戒して指輪をはめたことを思い出した。


たしか彼女は俺にはめた銅の指輪について「アポロの力を制御する為の物です。アポロが、余計な、過剰な物に同期しないための」と語っていた。


ああ、そういえばその指輪をはめられた時も身体が燃えるようになった。その時の衝撃で、旅の初めにエドガーが買ってくれたキャッアイの指輪が壊れてしまったんだ。


今度は、マルケスが「貸して」くれた虹のつまった指輪も壊れてしまった。


景色は元に戻ったのに、言いようのない不安が身体からわきでてくる。俺はそれをどうにか抑えようとしながら、無言でみんなの後をついて行く。


と、目の前に妙な物が出現していた。龍だ。とても美しい龍。俺はすぐにサファイア・ドラゴンのレヴィンを想起した。巨大な龍は精悍で厳めしい顔を空に向け、微動だにしない。その鱗はエメラルドグリーンに輝きながら、角度によっては虹色にも見えており、巨大な宝石のようなすさまじい存在感があった。


「フォルセティ……様……」


 か細い声でグレイがつぶやく。え! そうなの!?


 以前フォルセティさんが蓮さんと演習をした時に、フォルセティさんは龍人の姿に変身した。でもそれは身体の一部が龍になるといった感じで、巨大な龍に変身するというわけではなかったのだ。


「はい……。はい……承知致しました」


 グレイは立ち止って、神妙な顔つきで一人うなずき、そう応えている。え? 何か言ってるのか? 何も聞こえないけど!


 何故かエドガーが舌打ちをした。


「ったく、本当に自己中心的なヤローだぜ」


 自己中心的なのは息子のエドガーも同じでは? そう思ったが、え、ってことは、


「もしかして、エドガーも何か聞こえたの? 俺は何も聞こえなかったけど。エノク教会の人とか、龍にしか分からない言葉で誰かが喋ってたの?」


「そうだ。フォルセティ様はこうおっしゃられた。私はしばらくこの場から離れられない。龍と化した私の身体を傷つけられるような物はそうはいない。ハレルヤの指揮に従い、これからの戦いに備えろ。と」


「これからの戦いって、終わったわけじゃないの?」


 ジェーンが不安そうに尋ねる。たしかに、プロメテウスの姿も無ければリッチの姿も見えないんだけど。


「そういえば、ヴァルキリーの歌とか、ヘラらしき人とか、あれは何だったんだろう。何でこんな所に出てきたのかな」


 俺が独り言のようにつぶやくと、エドガーはまた舌打ちをした。


「何だよ、厄介事は俺任せってことか? おもしれえ。やってやろうじゃねえか」


「グレイ、フォルセティ殿がまた何か言ったのか? 教えてくれ」


 血気盛んなエドガーではなく、蓮さんはグレイに尋ねた。しかし、なぜかグレイは言葉に詰まっている。


 先程までは平和な景色に戻ったと思っていた。しかし天から光の柱が出現したように、今度は地面から何かの柱が幾つも出現してきた。


 青白く、おどろおどろしい雰囲気の柱。それらは鎧や盾や剣や亡骸で作られている十字架だった。もしかして、これらは先程散って行った勇士たちの姿なのだろうか?


 周囲を見回し戸惑っていると、地の底から嘆き声のような不気味な歌声が聞こえてきた。歌? なのか? 言葉は判別できないけれど、嫌な感じがする。


「みんな、僕のそばから離れないで。グレイ、お願い」


「了解した」

 二人がすぐさま防壁を張る。ふっと、気が楽になったような感じがしたが、不気味な声も、地面から生えてきた十字架も消えることが無い。


「こいつらを鎮めるってのは、エノク教会の人間の得意分野じゃねえのか? 俺様がこのきもちわりい柱を全部打ち倒してやろうか?」


 冗談なのか本気なのか、エドガーがそんなことを口にした。誰も答える者はいなかったけれど、このまま防戦一方ってのもらちがあかない気がする。


「ハレルヤ。何が起きているのか知っているなら説明してくれないか」


 俺の気持ちを代弁するかのように、蓮さんがそう口にした。


「分からないよ。ただ、最悪の事態は防ぎたいんだ。相手の行動に対応して、こちらが行動を起こさなきゃ」


「もっともだな。失礼した」


 蓮さんはそう言って口を閉ざす。蓮さんの力は闇の物に対しては分が悪いからなあ。実はエドガーよりも歯がゆい思いをしているのかもしれない。


 と、奇妙な感じがした。奇妙というか、これは、アーティファクト反応だ。


 俺が空を見上げると、巨大な何かがこちらに向かっているのを感じた。その速度はすさまじく、視界の中に飛び込んできたのは、一頭の白馬だった。その馬の身体は白いのに、たてがみはカラスの羽のように黒く、おまけに足が八本もあるようだ。こんな奇妙な馬を見たことが無い。


 というか、この馬、俺達に突進をしようとしているのではないのか? そう思った時には、ハレルヤが自分の羽を毟り取り、投げつけていた。


 奇妙な馬の姿は消え去った。そう思ったのだが、少し離れた場所に瞬時に移動したらしかった。奇妙な白馬は巨体をねじらし、大口を開けて低い声でいなないている。


 あ、あれ? 先程感じたアーティファクト反応はこの馬から発せられているのではないのか? 今は何も感じないんだけれど……

「何この馬。これもリッチの召喚獣ってわけ?」


 ジェーンがそう声を上げると、冷静な、いや、少し緊張した声色でグレイが語り出した。


「もしや、この馬はスレイプニルではないだろうか……俺も実物を見るのは初めてだ。八本の足を持ち、神の乗り物だと言われる神獣だ。だが、もし神獣スレイプニルだとするなら、何故俺達を攻撃するのだ? 幸いといっていいのか、神が近くにいるような気配がないのが救いだろうか……」


「聖獣だか神獣だとするなら、僕が始末できるかもしれない。ハレルヤ、僕の出番か?」


「ちょっと蓮! 何エドガーみたいなこと言ってるのよ! 神様を敵に回したくないでしょ!」


 蓮さんの発言にジェーンがつっこみを入れる。たしかに神の乗り物なら手出しをしない方がいいと思うんだけれど、今は攻撃されてるからなあ。どうすればいいのか。


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