第十六章 きみはずっと一緒に
エドガーは蓮さんの両腕のすみずみをつかみ感触を確かめると、
「ありがとうな、アポロ。それと、こいつにも礼を言わなきゃな。辛く当たっちまったけど」
とひざまずき、彼女の亡骸に祈りを捧げる。
「それで、話したいことがあるんだろ?」
俺は話した。俺が知っている彼女のこと全て。彼女が辛い思いをして、それでも絶望に向けて生きてきたこと。俺達に会って変わった、と言ってくれたこと。エドガーは真剣そうに、黙って聞いてくれた。
「あ、あのさ、エドガー。俺、どこか綺麗な場所に彼女を埋葬するから。この姿のまま放っておけないから」
そう言って、抱き上げた彼女の体はあまりにも軽く、痛ましかった。あんなに、あんなにきれいな愛らしい少女が、小さな恋心を抱くのも許さないのか? そう思うとまた涙が出てきた。
違う。彼女の決断だ。俺がごちゃごちゃ口をはさむな。彼女は短い間の恋をしたんだ。自分の運命に抗って、戦ったんだ。なんて立派なんだ!!
俺はしばらく飛んで、花々の咲く小さな湖を発見して、そこに彼女を埋葬することにした、いや、ここは綺麗そうだし、湖の中に入れる方がいいかと思った。単に、俺が、彼女を埋めて土をかける、というのが辛くてできないからだ。
俺は蓮さんのくれたお守りを、彼女の壊れかけの小指に結び付けた。そして、湖の底へと、沈める。
捨て子で、ガラクタウンのスラム暮らしの俺は、自然と彼女と自分を重ね合わせていたのかもしれない。でも、彼女には誰も仲間がいなかった。辛いよ、辛すぎるよ。こんないい子なのに。
最初に俺達に心を開いてくれるの勇気いっただろうな。俺だってそうだったもん。一人きりの時、周りはみんな無関心か敵だって思ってた。実際、ほとんど、そうだった。
でも、でもさ、きれいごとだってわかってる。でも、アイシャ。一日だけの友達だけど、楽しかったしヒヤヒヤしたし死にかけたし、ぎゅっとつまってたよ。何より、君のかわいい部分、きれいなとこ、真面目で強い部分、沢山見せてくれたから。俺が、覚えてるから、君が最高にキュートで強い子だって。
それにね、蓮さんの腕の一部アーティファクト化していたでしょ。君の記憶はなくても、これでずっと、蓮さんと一緒に旅が出来るよ。色んな景色もきっと見られるよ。そうだよね、アイシャ。俺は、そう信じる。ありがとう。これからも、よろしくね。
俺はようやく泣くのを止め、教会に戻る。ちょっと困った顔のエドガーが迎え出てくれて、
「今度はお前までいなくなったら、どうしようかと思ったぜ」と言った。
「心配ばかりかけてすみません」と言うと、真面目な顔で、
「俺も、今まで何人、何十人もの、志半ばで散って行った冒険者を見てきた。彼らは、普通その場に置き去りになる。俺ならともかく、敵が出るのに、死人を背負って旅をすることはない。それか近場で、埋葬してもらう。明日は我が身。それが冒険者だ。あの子も、俺らと似たようなもんなんだろ。小さいのに、覚悟を決めて、生きてきたんだろ。アポロ。お前は、アイシャをとむらってやったんだ。もう、それ以上悪いことを考えるな、いいな」
あまたの冒険をくぐり抜けた、幾つもの体験をへたであろう、エドガーの言葉は、重く、優しかった。少しだけ、蓮さんがそう言ったら激怒したくせに、と矛盾したことを思ったけど、それは、仕方がない感情だと思う。頭でわかっていても、仲間がそうなったら、正気じゃいられない。俺は泣くのをこらえながら。
「はい、大丈夫です。元気です」と言った。
するとエドガーが苦笑して、
「どこが元気な顔だ! ほんとにうちのバカ共は。ほら、寝て、あいつが元気になったら、こんなとこさっさと出るぞ!!」
エドガーの言う通り、というか、教会の簡素なベッドに横になるとすぐに眠りに落ちて、ふと、気が付くと、聞き慣れた物音がする。もう朝になっている。俺は急いで外に出ると、裏・村正を振るう蓮さんの姿があった。夢を見ているのかと思った。でも、違う、目の前にいるのは確かに、