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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第三十三章 反撃、欺き

 リッチがまたわけの分からないことを言って俺達を混乱させようとしている。そんなの誰が聞くかよ。そう思っていた。


 しかし、何か妙な感じがした。バリアに包まれているのに、背中に冷たいものが触れたような……


 はっとして上を見ると、そこには巨大な穴が出現していた。穴? と言っていいのだろうか? だが、頭上に出現したのは、見た目だけなら洞窟の入り口のような暗く大きな穴だった……


「え? これ? リッチの作ったもの?」


 俺が間の抜けた声を上げると、フォルセティさんの厳しい声が飛ぶ。

「グレイ。上方に聖鎧を開放後の圧撃。その間にジェーンはミラクルグロウからのアベリエヌ・ウォータだ」


二人が「はい」と応えた声が重なる。上空の穴からは大きな黒色が降ってきた。それは、まるでインクのような黒さだった。大量のインク? そんなわけがない。ただ、まともにその黒を浴びたら、ただでは済まないことは分かるのだ。


「おりゃあああああ、吹き飛べ!!」


 グレイが威勢の良い声を上げ、自分の盾を巨大化し、空へと放つ。すると、盾と黒色がぶつかりあい、黒色の落下が停止した。グレイはその後も大きな光の盾を生みだすと空へと投げる。


「聖騎士っつーか、なんつーか、バーサーカーみてーな防御方法だな」


 エドガーが感心したような、しかし失礼なことを口にする。でも、グレイは当然答えない。


「母なる恵みよ 父なる抱擁よ 汝らの祝福で 奇跡の実りを顕現せよ ミラクルグロウ!!」


 ジェーンが詠唱をすると、俺達の周囲を取り囲むように、地面から五本の細長い樹が伸びてきた。


 でも、それだけ? 動く様子も何かが生まれる様子もない。ジェーンにどういう魔法か聞きたいけれど、彼女は既に詠唱をつづけているからそんな雰囲気ではない。


 ジェーンの集中した顔。彼女は小さなバッグから硝子瓶を出し、中の液体を口に含み、再度詠唱を続ける。


「ここは あなた達の住家

 夜の音がする水辺

 朝を食む揺籃

 眠りなさい 歌いなさい 休みなさい

 あなた達の歌を教えて

 喜びの歌を

 夢から覚めた後の歌を

 そして私が洗い流そう

 あなた達の言葉も不安も」


 初めて聞いた呪文だった。いつものジェーンの唱える呪文とは、少し雰囲気が違う気がした。何て言ったらいいんだろうか……そうだ、エドガーを卵に封印した時の呪文に似ているかも。


 あ、アカデミーのマガタ教授だ。たしか、幻術や時空術のエキスパートっていうすごい人。


 ん? ってことは、これもすごい魔法なのかな?


 でも、何も起きている様子はない。相変わらずグレイは何度も空に盾を投げつけているけども。


 それに、この呪文ってなんか妙な感じがした。文を正確に覚えてないけど、歌え眠れとか住家なのに洗い流すとか言ってなかった? なんかでたらめだなあ……


 ふと、懐かしいような気配がした。気配というか、虫の羽音に似た笑い声。俺の頬や髪や翼に触れる、くすぐったい感じ。


 もしかして、妖精? 俺は周囲を見るが、妖精の姿は見当たらないようなのだが……


 しかし、俺は妖精の代わりにスクルドと目が合った。彼女はいつの間にか自分の足できちんと立っており、俺に語り掛ける。


「アポロ、楽器を用意して。そして、これから訪れる大きな存在に身を任せ、同期する準備をするの」


「楽器って、ハープのこと? 大きな存在って?」


 俺がそう質問をすると、スクルドは俺の手をとって「心配しなくても、アポロなら大丈夫だよ」と言った。


 今の彼女は、正気なのだろうか? それとも、誰かの言葉を喋っているのだろうか?


 俺がそんなことを考えて返事が出来ずにいると、彼女の首が飛んだ。


 あまりにも一瞬のことで、感情が追いついてこなかった。地面に落ちるスクルドの頭部。呆然と立ち尽くす俺の目の前には、蓮さんの姿があった。


 蓮さんに何か言葉をかけたいのに、何て言ったらいいのか分からない。


 すると、蓮さんは懐から死者の指輪を取り出した。古びた指輪は黒い光を帯びている。その小さな指輪に、倒れたスクルドだった者の亡骸が吸収され、その場には何もなくなっていた。


 どういうことだ? このスクルドは、偽物??? でも、一体どこで入れ替わったんだ? 本物のスクルドはどこだ?


 混乱状態の俺に対して、蓮さんは冷静にリッチへと語りかけた。


「先程スクルドが誰かの言葉を喋り、倒れた。その時から妙な気がした。禍々しい闇の力を隠しきれていないのか? 隠そうとしていないのか。どちらにしろ、スクルドを返してもらおう。彼女は不死身だ。その力を開放できるのはアーティファクト使いだけのはずだ。お前が奪ったとしても何もできない。無駄な悪あがきはそろそろ終わりにしろ」


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