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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第三十二章 不穏な流れへ

 蓮さんは、何か恐ろしい決断をしようとしているのか。


 俺は勿論蓮さんのことを信じている。彼が本当に情に厚い武人だってことも。


 それと同時に、蓮さんの力、四式朱華に通じるあの力の恐ろしさも理解していた。俺は蓮さんに何か声をかけたいのに、それは言葉にはならなかった。


「お前たちは呪われた声に従い、身を亡ぼすのですか? そこまで愚かだとは思いませんでした。今すぐあの忌まわしき皆殺しの天使を封じる聖戦に連なりなさい。時はもう満ちているのです」


 その声は、俺達が発したわけでもないし、気絶しているスクルドが誰かの言葉を喋っているわけでもない。


「お前、ヘラ……だよな?」


 エドガーの言葉で、俺はようやく気付いた。


 俺達のバリアの付近に、白いローブの影のような物が浮いていた。一見、ゴーストやアンデッドのようにも見えたが、そこからは闇の魔力はなく、聖なる力が感じられた。


「ヘラって……嘘だろ? 本来ならヘラという名前は、主神とも言われるゼウスの第一婦人の物だ。ここにいるのは神影ですらない。おかしいぞ。お前らの知り合いなのか? こいつは何なんだ?」


 突然、うろたえた様子でグレイが尋ねてきた。


「ヘラが神族かは分からない。しかし、彼女はトール神を信仰する司祭のはずで、僕らにこの地の調査を依頼した」


 蓮さんが冷静にそう返した。それを聞いたグレイは多少落ち着きを取り戻したらしく、


「そうか……流石にトールの所の司祭が神であるヘラってのは考えにくいな……」と独り言のように呟く。


 そうか。俺はそこまで神様の名前や存在に詳しいわけではないけれど、ヘラというのも本来は神様の名前だったのか。そんなのがいきなり現れて俺達に命令してきたら、そりゃ驚くよなあ。


「何を無駄話をしているのですか。使命を思い出しなさい。世界を救うために、あの存在してはならない天使を殺せ!!!」


 ヘラの憎悪混じりのような言葉を聞くと身が震えた。とても聖職者の言葉とは思えなかった。


「こいつ、正気かよ。それとも、ヘラも操られてるってんじゃねえだろうな」


 エドガーがそう言って眉をひそめる。本物であってもそうでなくても、とりあえず彼女の言うことには耳をかさないほうが良いような雰囲気だ。


 だが、彼女が声を上げると、周囲に青白い肌をした戦士たちが現れた。


 一目で気付いた。彼らは上空で戦っていた勇士達だ。再召喚のようなものがされたのか、それとも、新しい勇士たちだろうか。


 彼らは一点を目指して突撃を始める。あの、強大な光に向かって。


 しかし現実は残酷な物だった。新しく現れた勇士たちも、朱金の天人の前では光に触れて消えて行くだけのようだった。


 その中にはヴァルキリーもいるのだろうか。エリザベートがいたとしたら。或いは、もう、特攻をして消え去ってしまっていたなら。


 俺は余計な考えを振り払う。しかし、もう黙ってここにいるだけなんて耐えられない。


「フォルセティさん、ハレルヤ。俺達はバリアの中にいるだけなんですか? それで、世界を救うことになるんですか?」


 二人は俺の言葉には答えない。予想はしていたけれど、何が正解なのか、どうすべきなのかさえ分からない。


 でも、あのエドガーでさえこのバリアの中にいて個人行動をしていないんだ。俺だって、千のチャイムを使ってはいたが、もしもバリアから出てしまったら命の補償はないだろう。


「お前達! 何をためらう必要があるというのです! お前達の手は、剣は、何のためにあるのですか! 今こそ決戦の時! 正義の光で闇を払うのです!!!」


 ヘラが怒声を辺りに響かせる。しかし、勇士たちははかなく消え去るだけ。強大な光は決して揺るがない。


 と、悪寒がした。急に辺りが暗くなったように感じられた。


 感じられた、だけではない。実際に辺りには闇の魔力が満ち満ちているのが感じられた。


 リッチの身体が週十倍にも巨大化している……いや、様々な亡者や悪霊が巨大化したリッチと同化して蠢いている。


 おぞましい化け物は見上げる程の大きさになっており、俺達の前に現れた。


 と、それがこちらに向けて何かを発射した。


 黒いエネルギーの放出か、叫びのような衝撃波か。


 しかしそれはこのバリアの中では無意味な様子だった。闇の攻撃はバリアの前で音もなく消え去る。もしかしたらこの中でうろたえているのは俺だけだったかもしれない。


「無駄なことを。愚かな」


 グレイがそう呟いた。


「おい、ヘラが消えてるぞ。どういうこった。今の攻撃で消えたのか?」


 エドガーの言葉で慌てて周囲を確認すると、確かに白いローブの姿は見当たらない。それに、天人へと突撃をしていた勇士たちの姿も見当たらない。


 ふと、周囲が光を取り戻していることに気付いた。それに、巨大化していたはずのリッチは、元の姿に戻っているようだ。何か、おかしい。


「前方展開しろ」

 フォルセティさんがそう告げると、グレイは高らかな声を上げる。


「聖鎧開放! くらえ、ライトシュート!!」


 グレイの身体が甲冑に包まれるやいなや、彼は手にしていた大きな光の盾を前方に投げ飛ばしていた。狙いは、リッチだ!


 しかしその盾は、リッチに直撃したはずなのに、闇の力によって消滅していた。リッチに負傷しているような様子は無い。


 急にリッチを攻撃したのはどういう理由だろう? というか、バリアの中からでも攻撃はできるのか? 同じ光属性だから可能だってことだろうか。それとも、結界、バリアを張っているのがエノク教会の二人だから、一時的にそれを消滅させて攻撃に転じたのだろうか。


 攻撃されたのにも関わらず、リッチは意外にも飄々とした様子で語り出す。


「勘が良いねえ。ほんと、クソ腹立たしいねえ。まあ、それも物語のスパイスみたいなものだね。日和見主義なんて駄目だね。君らも介入してくれなきゃつまらないもんなあ。だろ? そうは思わないかい? 天才たちよ!」


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