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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第二十九章 勇士の使命

彼は、頭を下げたまま口を開く。


「いかなる誹りや罰をも受ける覚悟です。教会に、フォルセティ様に泥を塗るような真似をして許されるとは思っておりません」


「そうか。分かった。36の真言において命ずる。拾伍翼・弐拍百合騎士 フェルディナンド=ギルディス。お前は破門に処す。今この時からメタトロンの加護を失い、私の任からも解かれた。以上」


 グレイは顔を上げ、フォルセティさんの顔をしっかりと見て、もう一度頭を下げた。意味が分からない。破門って? 教会のことはよく分からないけれど、一番位に重い罪なのでは?


 ふと、グレイの顔を見てしまった。勇ましい彼の顔が明らかに青ざめ、ほんの少しだけ震えているようにも見えた。


「何で」


 そう、弱々しい声でグレイが呟いた。ギルディスはグレイを見ると「すまない」とだけ口にした。


「お前! どういうことをしようとしているんだ!!! きちんと説明しろ!! どういうことだ、どうしちまったんだよ!! 自分のしようとしていることが分かっているのか! 分かっていないだろ!! 馬鹿な! 冗談はやめてくれ!! なんだってんだよ!!! ギルディス!!!」


 怒りと混乱混じりの悲痛な叫び声が辺りに響く。しかしギルディスは静かに俺達の防壁から離れ、飛んだ。


 飛んだ? そうだ、上空へとワープしたように見えた。


 聖騎士って、飛べるのか? というか、彼は何なんだ? いきなり、この状況で自ら破門され、フォルセティさんを裏切りパーティから離脱するなんて。


 空は相変わらず美しい夕焼け色をたたえているが、俺には歌が聞こえない。


「フォルセティ様。説明をしていただけないでしょうか。どうして、彼は、彼は自らの任務を、全てを投げ出したのでしょうか」


 グレイが「全てを投げ出す」という言葉を口にすると、そのようやく重みが俺にも分かってきた。そうだよな。彼らは十数年もエノク教会の人間で、しかも友達同士だったんだよな。それを投げ出す理由なんてとても思いつかない。


「優先すべきことがあるのだろう。仕方がない」


 フォルセティさんはさらりとそう口にした。


「今! この時! 他に優先することなどあるわけがない!」


 グレイがフォルセティさんに口ごたえをするのを初めて見た。フォルセティさんは相変わらず冷静な態度をとっている。しかし、彼はとても悲痛な顔をして、すぐに言葉を継ぐ。


「このような非礼、失礼致しました。俺は盾の騎士。迷いは裂け目を生む。すぐさま防御陣形を維持する作業に戻ります」


 グレイはそう言うと、上空の一点を見つめながら、両手から光の力を放出するような態勢へと戻る。その姿は痛ましくも頼もしくって、俺の胸も痛んだ。


「まだ何も始まってねえのに、仲間割れとか止めてくれねえか?」


 エドガー! 間違ったことは言ってないにしても、今そういうことを言うなよ! 


 でも、それを注意して話を広げるのもよくない。俺がやきもきしていると、蓮さんがぼそりと告げた。


「空が妙だな」


 その言葉で再び空に目をやる。夕焼け空と言うこと以外は、何もおかしいことはないみたいなんだけれど……


「おい、時間稼ぎをしてるつもりか? こっちからやらねえと分からねえみたいだな」


 エドガーが挑発しても、リッチは微笑みを浮かべたまま無反応。


「答えて下さい。あなたの本当の名前は何と言うのですか」


 続いてスクルドも尋ねるが、それにも無反応。


「ジェーン。上空の映像をこの場に写し出せるか」


 フォルセティさんがそう切り出すと、ジェーンは「はい」とすぐに返事をして、右手で何かの印を結ぶ。


「空の支配者よ 飛翔する智の翼よ 夜を知り 朝を飛び越える 賢き汝の目に映る世界を 我に示せ ウィザーズ・アイ!!」


 ジェーンがそう口に出すと、俺達のいる一メートル位上空に、大きな丸い鏡のような物が出現した。そこには何やらぼやけた映像が映っているようだったが、それが次第にはっきりとした姿になる。


「騎士?」


 思わず、そう口にしてしまった。金属の鎧を着ているようなのだが、なぜか、もやがかかったような雰囲気がある。奇妙な大勢の騎士が、夕焼けの雲の中を走っている……?


「これ、どういう映像なの? 今、俺達の真上で起こっていること?」


「そのはずなんだけど……でも、妙ね。こんなに大勢の騎士が空の上を移動できるなんて、普通だと考えにくいし……」


 鏡に映っているのは、確かに雲の中を走る騎士、兵士たちの様だった。でも、そこまで映像が鮮明なわけでもないし、いまいち現実味がない。実際に俺が上空まで飛んでいけたらいいんだけどなあ。


ジェーンが言葉に詰まると、蓮さんがぼそりと言った


「僕の思い違いかもしれないが、彼らからは屍人の匂いがする」


「屍人? そう? もしそうなら、私にも分かるはずだけど。それに、こんな立派な装備を身に着けたのが大勢いるのは、屍人だとしたら不自然というか……でも、確かになんか変ね……あ! 今映し出されているのは幻術? でも流石の私でも、幻術を破った上で映像を見せるのは無理。何かあるとして、無効化できる人いる?」


「そんな無茶な。幻術って言われてもなあ。俺が飛んで行って確かめられたらいいんだけど」


 ジェーンにそう告げると、彼女も困った顔をした。


「間違いはない。彼らは使命の為になら空を駆けること位なんともない」


フォルセティさんがそう断言したけど、この人、何を知っているんだ? あーもう! エドガーじゃないけどさ、知ってること全部俺らにも教えてくれよって思ってくる。


「それは、ギルディスもそうだ、ということでしょうか?」


 少し抑えた声で、グレイが呟いた。はっとした。あの中にはきっと、ギルディスもいるのだ。


フォルセティさんは黙っている。グレイはそれ以上何も言わなかった。


その代わりに下品な笑い声が辺りに響く。


「なんだよなんだよ、楽しそうにしやがってさ。盛り上がっちゃって、羨ましいなあ。そうこなくっちゃなあ。でもさあ、俺が言っただろ。世界の崩壊の危機なんだって、その為に頑張って協力しようぜ、ってね」


「要点だけ話せ。俺はこいつらほど大人じゃねえんだ」


 エドガーが凄みのある声で告げる。思わず身震いしてしまった。脅し文句だとは思う。でも、新しい龍の力を得た彼なら、力づくでどうにかしてしまいそうな怖さがあった。

 リッチは小首をかしげ、左の手のひらをひらひらと振り、おぞましくも美しい瞳を輝かせて言う。


「始まるよ、争いが」


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