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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第二十八章 歌が聞こえる

「お前、ハッタリはいいんだ。早くあの朱金の天人を呼び出せ。それで世界を救ってやるよ。余計な言葉はいらねえんだ。喋るなら、俺達にも伝わる言葉で喋れ」


 エドガーが力強い声で告げる。それを聞いたリッチは無反応……いや、また笑った? 気味が悪いし、相変わらず何を考えているのか読めない。


「ほうら、耳をすませてみろよ。少しずつ、美しい調べが空から聞こえてくるぜ」


「戯言は止めろ。時間稼ぎをしているのか? 僕達にも考えがあるぞ」


 蓮さんがそう切り出すが、何か策があるのか? というか、フォルセティさんが張っている結界から外には出ない方がいいだろう。それは蓮さんも承知しているはずだ。


 それとも、このメンバーの中で闇属性? の力を持っているのが蓮さんだけで、リッチ相手なら蓮さんが一番適任ってことなのか? 


 でもそれを言ったら、エノク教会の人達もいるし、流石のリッチだって、ここにいる全員を倒すのは無理と言ってもいいと思う。やはり仲間がいるってことなのか?


「ねえ、あれ……」


 か細いジェーンの声で我に返る。ジェーンの視線は、明らかに上を向いていた。


 いつの間にか、空が夕焼け色に染まっている。妙な気分だ。あれ? ワープしてきた時って、昼間で青空が広がっていたよな……


「えっ、なんで? ヴァルキリーの歌が、聞こえる……」


 そう口にしたのは、スクルドだった。え? スクルドはトール神に仕えるヴァルキリーと関係があったっけ?


 その時思い出して鳥肌がたった。ヴァルキリーって、エリザベートは、関係あるのか?

そもそもここに来たのは、エリザベートより上の立場の神官? ええと、ヘラって女性に頼まれたからだよな。


ヘラ。白いローブを全身にまとい、被った帽子からはキラキラと光る光のカーテンが広がっていて、口元しか見ることができなかった。謎の多い存在。声と立場から年老いた女性らしいことのだが……


 嫌な予感がする。しかし俺には、ヴァルキリーの歌なんて聞こえない。空に広がるのは異様に美しい夕焼け。でも、音もしないし、何かが現れる様子もない。


「ヴァルキリーの歌って? 説明してくれないか?」


 さすがの蓮さんも、少しだけ動揺したような声でスクルドに尋ねた。スクルドは右手を上げ、細い人差し指で天をさす。


「今、聞こえて。私、昔聞いたことがあるんです。小さい頃、保護された時に聞いたヴァルキリーの歌……ねえ、あなたは、リッチではなくロキなんですか?」


 ん? スクルドは何を言っているんだ? 彼女も混乱しているのか? 誰かの声を聞いているのか? 


 スクルドは、預言を聞いて喋っているのか? 単純に歌が聞こえているのか? 


 ともかく、彼女が話しかけているのは、リッチらしいのだが……


「何を知りたいんだ? でもさあ、俺がリッチでもロキでもどちらでもどうでもいいことだろ。そんなことにこだわってどうするんだよ」


 意外なことに、リッチが反応をした。相変わらずはぐらかしてはいるけどさ。でも、そうだ。俺達がリッチと呼んでいる存在が「ロキ」だとすると、何の問題が発生するんだ?


「ちょっと、私も聞こえる……何なの? この歌? 歌? 他に聞こえる人はいる?」


 焦った声でジェーンが俺達に確認をする。でも、俺は全く聞こえないし、他の人達もそうらしい……何でだ? 俺達はそれぞれ色んな力を感じ取れる力を持っているはずなのに、スクルドとジェーンという共通点が無さそうな二人にだけ聞こえている?


「ヴァルキリーの歌というのは、女性にだけ聞こえるものなのか?」


 独り言のように蓮さんが呟いた。あ。そう言えば大きな共通点があった。二人共女性で、ヴァルキリーって女性しかなれない職業だよな? きっと、みんなの視線が二人に集まっている。


スクルドは相変わらず天をさしたまま、表情は硬い。ジェーンは少し怯えるような、困ったような顔をして俺達に訴えかけた。


「待ってよ。私は歌みたいなのが聞こえるってだけで、これがヴァルキリーの歌かどうかは分からない。それに、女性だけに聞こえる歌、魔法、呪歌ってあったかな……ねえ、他にも聞こえる人いるでしょ! 集中してみてよ!!」


 最初は困っているような様子で話し出して、最後は強気ないつものジェーン。というか、集中してって。それで聞こえるものなのか? 俺は相変わらず何も聞こえない。スクルドもリッチも黙り込んだまま……どうすればいいんだ?


「はい、聞こえます」


 そう口にしたのは、ギルディスだった。


「なんだ、お前も聞こえるのか。だとすると、俺が聞こえないのが不思議だな」


 相棒であるグレイがほっとしたような感じで声をかけた。でも、心なしかギルディスの顔は険しい。


「聞こえるのか」


 ぼそりとフォルセティさんが口にした。何故か、ギルディスはフォルセティさんに向けて深々と頭を下げていた。


 どういうことだ? 何なんだ? エノク教会の決まり事? 風習があるのか? 


「ギルディス? お前? 何をしているんだ? ふざけてないで、背筋を伸ばせよ。任務中だ。おまけにここは戦場だぞ。」


言葉こそ勇ましいが、その声は弱々しかった。グレイの動揺が強く伝わってくる。しかし、ギルディスは深々と頭を下げたまま動かない。


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