第二十五章 ワンタイ諸島 到着
その後は、どんな話題が出てもあまり盛り上がらず、いつしか皆黙り込んで、静かにワンタイ諸島への到着を待つことになった。
そういえば、これから大きな戦いが待っているんだよな。エドガーの話に夢中になっていたせいか、そんな緊張感は良くも悪くも薄い。
まあ、戦闘面で俺にできることは限られるかもしれないけれども。
ふと、蓮さんも瞳を閉じていることに気が付いた。そうだ。体力は温存させておくに限る。そう思うと、俺もそれに習う。俺も案外疲れていたのか、自分でも驚くほど速く、心地良い眠りに落ちて行った。
「おい、いつまで寝てんだ。お前が最後だぞ!」
エドガーの声にはっとして飛び起きる。慌てて周囲を見るも、船には確かに誰の姿も無くて、目の前には地面があり、木々が広がっていた。
飛び跳ねるように、地面へと駆ける。短い船旅だったけれど、地に足がついているとやっぱ安心する。
でも、周囲を見回して、あることに気が付いた。
「あれ? 喜撰がいない?」
「喜撰殿は用事があるそうで、早々に出られたよ」
蓮さんがそう教えてくれた。ちぇっ。大きな戦いがあるんだから、なし崩し的にでも、同行してもらえたら心強かったのになあ。
「それで、肝心のアーティファクト反応とかってのはどうなの? 顕著な魔力反応は感じないんだけど」
ジェーンがそう尋ねてきた。確かに、強い魔力反応はなさそう。それに……
俺はワンタイ諸島の木々の中に足を踏み入れて、数歩。周囲を見回しながら一応大きな葉っぱに触れたり木々を撫でたりするんだけれど……
「やっぱり、この周囲には、アーティファクト反応はなさそうですね……」
俺がちょっと弱気になってそう告げる。
「ならよ、どこか休める場所があるだろ。そこにフォルセティ様をご案内する。後はそっちでうまくやってくれ」
グレイがさも当たり前のようにそう口にした。なっ!! ちょっと腹が立ったけれど、流石にこの島を全員でぞろぞろ歩くのは賢いとは言えないだろう。
「そうね。蓮はこの島に多少詳しいんだっけ。案内してよ」とジェーンの声。
「大きなホテルはないはずだが、一度全員で屋台が集まる中央部へ行こう。そういえば、そこにはシャーマンがいるはずだが……いや、止めておこう」
そう言って島の中へと進む蓮さんに、エドガーが声をかける。
「おい、シャーマンってのなら、今の状態で役に立つんじゃないのか? あいつら、神様や精霊の声とかを聞こえるんだろ?」
エドガーがそう言うと、蓮さんが即座に制する。
「しかし彼らはアーティファクト反応について分かるとは思えない。それに、僕らにはスクルドがいる。もし、シャーマンの言葉とスクルドが受け取った言葉がかみ合わないなら、少し面倒なことになるかもしれない」
ああ、そうか。蓮さんの今の発言で、エノク教会の人らに他の宗教や神様の話をするべきではないということを思い出した。色んな偉い人が別のことを言ったら、混乱するな。
俺はスクルドを見ると、彼女の表情は曇って見えた。
「スクルド?」と俺は優しく声をかけてみた。すると、彼女は少し驚いた表情をした後で、にっこりと笑顔を見せる。
「あ、うん。大丈夫。この島についても、何も声はしないんだ。何かあったら、みんなにすぐ伝えるから」
少し、無理をして明るくしているような気もする。それが気にかかるが、俺はアーティファクト反応があるか、ちゃんと確かめるという大切な仕事があった。
蓮さんを先頭にして、少し舗装された道をぞろぞろと歩く。その最中も、周囲を気にしながら、アーティファクト反応を探る。
一応、アーティファクトが視界にあるならすぐに分かるはずなんだけれど、ない……分からない……?
そうだよなあ。前にワンタイ諸島を少し歩いた時だって、何も感じなかったもんなあ。
「あの、前にこの島を歩いた時にもアーティファクト反応を何も感じなかったから、街の人に何か特別な場所があるか聞いてみるのもいいと思うんですけれど」
俺がそう提案すると、全員の足が止まる。
「てかよ、空中都市のアカデミーと繋がってるのも、あれもポータルなんだろ? あれで今回の目的地にワープできねえのかよ」
「それは思いつかなかったけど、普通はポータルって特定の場所と場所を繋いでいるんだと思うんだ。だから、多分無理かなあ」
俺がそう言うと、エドガーは「めんどくせえなあ」と言って前を見て歩き出す。くっ、俺だってめんどうだと思うよ!