第二十四章 天使は、まるで機械のような正確さで迷い児を導く
「まあまあ、これから一緒に悪い奴を成敗しに行くんだし、チームワーク。チームワーク。大切だよー」
こんな、空気を読めない発言ができるのは、ハレルヤ! というか、いつの間に空中ではなく僕らの近くに移動していたんだ? 彼はフォルセティさんに視線をなげかけるが、彼は意にも解さないといった様子で、エノク教会の三人とも微動だにしない。
「ったく……お前よぉ……」
そうエドガーが苦笑いを浮かべて頭をかくが、なぜか真面目な顔になって、ハレルヤのことをじっと見る。ハレルヤはそれに構わず自然体のまま、視線を受けている。
「……お前が、あの試練で、トゥリーキャビックで、俺に話しかけた声の主か?」
どきり、とした。他人事ではあるけれども、エドガーの言葉には重みがあるような気がした。というか、単に俺も根拠はないけれど、そう感じていたのかもしれない。
しかし、ハレルヤはいつものような和やかな調子で返す。
「違うよ。僕ではないね」
「は? いや、本当のことを言ってくれよ。あまりにもできすぎてるっつーか、変だろ。お前。何か秘密ってか、言えないことがあるらしいのは分かるけど、もういいだろ。教えてくれよ。試練を終えた後で、お前やアポロから光のエネルギー? 聖なる力みたいなのを受け取った気がしたんだ。お前らの近くにいると、力が増幅されるような、気分が良くなるような。これって偶然か? 違うだろ?」
エドガーが無理やりハレルヤに詰め寄った。流石にこんな風に言われたら、逆効果だと思うんだけれど……
でも、光の、聖エネルギーを感じて、僕とハレルヤから力を受けるというのは、偶然にしてはできすぎているような。ただ、ハレルヤも少し困った顔をしている。
「そうだなあ。僕が違う、っていう証明もできないからなあ。あ、そうだ。天使がエドガーを導くならば、きっと君の為になる道を示すよ」
「どういうことだ?」と不満そうにエドガーは口にする。
「試練でエドガーに声を届けていたのが、天使だと仮定しよう。もしその天使が僕らと同じ神様の使いならば、似たような行動をとるし、素人目には似たような姿をしているように見えると思うよ。だから、その導き手と僕は別人でも、思考や行動は近いかもしれない」
「は? いまいち意味が分かんねーんだけど」
「だから、通常なら天使は神の使いだ。試練の導き手だって、似たような存在かもしれない。そういう存在は、不正を許さずに使命を果たす。天使は、まるで機械のような正確さで迷い児を導くんだ」
「おい。それはねーんじゃねーのか。天使が、機械のような正確さで迷い児を導くだと?」
思わぬところから怒りを含んだ声がした。その発言者はグレイだった。彼はその場から動かず、しかし戦闘状態のような闘気を発しているかのようだった。
でも、僕にはグレイがそこまで怒る理由が分からない。ハレルヤは動じることなく、グレイに言葉をかけた。
「君達エノク教会にとって至上の存在が、天使メタトロンだっけ。その教えを否定するつもりはないよ。天使と機械を結びつける発言が不愉快だったなら、申し訳ない。でも、僕は、アーティファクトの天使だから」
あ! そういえば、エノク教会の三人って、ハレルヤの真の姿? 力? について知っていたっけ? 俺がどきどきしていると、グレイトギルディスは目配せをして二人でなにやらこそこそと小声で話し合いを始めた。
少し距離が離れているので、聞こえそうで聞こえないのがもどかしい。しかも、珍しいことにこの話し合いにはフォルセティさんは参加していていない様子なのだ。普段なら、フォルセティさんの意見を仰ぐような気がしていたのだけれど……
ギルディスはこちらを向くと、会釈をした。
「失礼致しました。こちらが過剰反応しただけですので、どうぞお話を続けて下さい」
……前にもこういうやりとりあったような……というか、アイシャと出会った、あのうさんくさい天使の里でもこういうこそこそ話があったよな……
気にしたら負けかも。教会の人達はよくわかんない面倒なルールに縛られていて、しょっちゅう怒ってるんだ。
「真相はともかく、エドガーは新しい力に目覚めた。おまけに僕やアポロがいると力が増幅される。いいことだらけじゃん。それはいいことだよ」
ハレルヤが強引に明るく口にしたが、場の空気は重い。
「そうだ、喜撰のじいさん。ゴールド・ドラゴンか黄龍ってのは、天使だか有翼族だか飛陽族の者といると、力が増すものなのか?」
「また面倒な質問をするわい……そうさのぅ。黄龍に限って言うならば、幻獣や神獣がその力になるといえるじゃろう。だから、お前さんが新しい力に目覚めて、誰かの力に反応するのも珍しいことではない」
エドガーは腑抜けたため息を一つして、大口を開けて大きく伸びをした。
「これ以上考えても無駄ってことか。まあ、長々と話しちまったな。後は自分で切り開けってことだよな。まあ、ありがとな」
エドガーはそう言うと、少し輪から外れてフォルセティさんのようにどっしりと腰を下ろし瞳を閉じた。言うだけ言って眠るとか、図々しいというか、大物と言うか。でも、それがエドガーらしいし、この先の戦いで迷い過ぎているエドガーなんて見たくない。