第二十二章 ゴールド・ドラゴン
そう男が告げると、俺の眼の前に三つのオーバル型の鏡が現れた。左から青銅、銀、金の縁取りがされている。しかし、その鏡は全て、覗き込んでも何も映ってはいない。
「君のことは君が教えてくれるよ」
男の優し気な声がした。はっとして鏡に目をやる。左の鏡は幼い俺の顔つき。真ん中の鏡は今の俺の顔。右の鏡には、やはり何も映っていないようだ……
しかし、一番右の金縁の鏡が光を放った。光だ。まるで、光魔法のような……
その時、俺はおかしなことを感じた。まるで、自分が魔力感知をしたような気がしたんだ。なんつーか、うまく表現できないけれど鏡から光が出るのを見て、「明るい」というよりかは、「光が出現した」と感じたみたいな?
俺がぼけっと突っ立ってると、その鏡の中から黄金の手が出現し、腕まで出てきやがったんだ。ぎょっとしたぜ。俺を鏡の世界に引きずり込もうってのか? そう警戒したが、襲い掛かってくる素振りが見えない。
その光を帯びた手のひらは、俺に向けて開かれていた。まるで、握手を求めるみたいに。
俺は右手に持っていた光の剣をしまった。しまったというか、なくなれ、と念じたら消え去った。ちょっとだけ迷ったが、俺は自分の手を差し出した。黄金の手に触れる、と、また奇妙なことが起こった。
レヴィンだ。俺の頭の中に奴の姿が浮かんだんだ。レヴィンは俺の一族の守護龍であるサファイア・ドラゴン。人間の形態にも自由に変化できるが、龍の時は虹色に輝く青い鱗。人間の時は白い肌だったはず。黄金の腕だなんて見たことがないのによ…
「おい、お前レヴィンなのか?」って俺は手を握ったまま口に出した。すると、気持ちよい風が吹いて、俺の全身を撫でていった。不思議な感覚だ。俺に魔力感知ができたとしたら、ここで風の魔力を感じるのだろうか。というか、俺は光の魔力しか感じる力がないのか
「このお礼は、ゴブレットに注がれた宝石の涙でいいぜ」
その声は、確かにレヴィンだった。おまけに龍族の試練だってのに、お題は宝石とかふざけたことを言うのも奴らしい。
俺は何か言い返そうとしたけど、握った手は解かれ、すっと鏡の中に戻って行った。俺は鏡に近づくと、今度は金色の鱗が見えた。はっとして、気づいちまった。
「映っているのは、ゴールド・ドラゴンの鱗か? それは、俺なのか?」
てっきり自分は銀龍の力を持っているものだと思っていた。龍の力にきちんと目覚める前は銀の狼に変身したしよ。でも、何も映っていない鏡に金の鱗が映ったってことは、そう言うことなんだよな……
「未来、そんなに遠くない未来の映像だ。君はゴールド・ドラゴンに近しい資質を持っているんだ。ゴールド・ドラゴンは富と繁栄を司り、人々に幸福を与える存在だ。剣を友とし己の力を頼りにしているけれど、君は本質的には誰かに光を与える存在のようだ」
「は? 本質とか知るかよ。俺は勇者なんだから困ってる人を助ける時も状況によってはあるし、世界中のいい女に愛をあげてるんだぜ」
「そうかそうか。己が光を讃えるのも、その光で誰かを照らすのも、どちらも君に相応しいということかな。ならば授けよう、黄金龍の輝き、その力を!」
俺の意志とは関係なく、俺の手のひらが熱くなり、光の大剣が出現する。先程自力で出した光の剣も中々だが、こいつは何かが違う。エネルギー体だから刀身の輝きを張熱することはできねえ。でも、感じてしまうんだ。俺が手にしているこいつは、とてるもない力を秘めているんだって。