第十四章 厳かな秘術の前
「ごめんなさい! アポロ!」
謝るのはこっちの方だ! ああ! 苦悶の表情を浮かべたアイシャが、くそ、このままじゃアイシャが潰されてしまう! 選択肢は一つしか無かった。魔力ではなく、まだ余っている腕力の、左手の鷹の力で、アイツの腕を、ぶち壊す!!!!
使いこなせていない、暴走してしまう、俺に見合わない力で、アイシャを助けるんだ!!
突撃して力を込めた鷹の力で鉄巨人の両腕をぶちぬき、破壊する。はは! やれば、できるじゃないか。アイシャも、無事逃げ出している。でも、俺も、もう、だめかもしれない。力なく近くの地面に膝をつく。鉄巨人は、ダメージはあるかもしれないが、生きている。だって、斧が、俺に向かって、飛んで、
しかし、俺の身体は宙にあり、しかも魔力の回復も感じる。俺は、アイシャの力で宙に浮いていて、彼女は、ゆっくりと俺を降ろしながらも魔力の注入は怠らず、
「やれるだけやりましょう。私たちの魔力と力が尽きるまで」
「了解!」と俺は再び魔力を集中させる。とたんに湧き上がってくる闘争心。それに見合うような大きな火柱を鉄巨人にぶつける。その後は途切れず火炎の波を。まばゆい光の中に俺らはいた。やったか?
そう思うと、斧が飛んで来て、
「そうだ、斧が本体だよ。こいつ亡霊みたいなものだったんだ。くそ! どうしたらいいんだ!! 攻撃魔法がきかないなんて! でも斧に殴りかかるなんて、無謀だ!!」
俺の焦りと緊張が最高潮に達する。すると、アイシャは俺への魔力注入を止め、すう、と息を吸うと、
「罪深きモノ。傲慢 強欲 嫉妬 憤怒 色欲 貪食 怠惰。七つの大罪。その全てを持たぬ汝らは人にあらず。人にあらざるものよ。土にかえれ。土は土に。灰は灰に。塵は塵に」
すると、斧が、ちりとなり、消えた、そしてあの景色もなくなり、そこには、古びた祭壇と自然が広がっていた。
「アイシャ!」
「アポロ!」
俺達は笑顔で固い握手をした。そしてお互い真剣な表情になる。きっとアイシャのアーティファクト能力には特別な物がある。だから彼女には自信があるし、悪い大人もそれに群がっていたんだ。
問題は俺がそれを引き出して、使えるかどうか。いや、そんなことを考えるな。覚悟を決めるんだ。それにしても、
髪は艶やかな黒髪で、目はぱっちりとして、唇も桜色で、元々かなり美形だったが、試練をへて、成長して? ますます大人っぽく綺麗になったなあ、とアイシャに言うと、アイシャははにかみ、
「ありがとう。うれしい。でも、アポロは、プレイボーイなのね」
「ちちちちちがう! 本当のことを言っただけだ。蓮さんだって、意外とこういうことをさらりという。彼が起きたら、アイシャにもこういうこと、言うよ、絶対」
アイシャは、困ったように、はにかんだ。
俺達が村に戻ったころには夕方になろうかという時間帯。一日の間にこんなことがあったなんてなあ、と思いつつ、教会の部屋に行くと、エドガーと蓮さんがいた。蓮さんは寝ているようだった。
アイシャの姿を見て、エドガーが、
「成功したんだな。手術だか儀式には、俺は邪魔だろ? 外で待ってる」
と何も言っていないのに、外に出て行った。
もしかしたら、エドガーも、怖いのかもしれない。わからないけれど。そして、アイシャが何かのビンのふたを取り、寝ているのか休んでいるのか、蓮さんの口に無理やり流し込む。
「睡眠薬と鎮静剤です、数分できいてきます。少しだけ、待ちましょう」




