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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第十四章 大丈夫だから

 その後、あんあにどたばた騒ぎをしていたのに、竹義が俺達の前に姿を現す様子はなかった。どういうことだろう。エドガーは何度も「ジジイの話は長げえなあ」とぼやいている。

 

 たしかにそうだ。ハレルヤと喜撰とは友人関係ではないのだろうか。でも、敵対していたとしたら、自分の家まで招くのも不自然に思えた。

 エドガーは寝転がっていた身体を起こすと、蓮さんにねだるように言う。


「おい蓮。わりーけど、あのジジイ共に話を早くしろって言ってくれねーか? 俺らの中でジジイに文句いえるのはお前だけだからよ、頼むぜ」


 蓮さんは「どうだろうな」と苦笑いを浮かべる。エドガーは続けて「ああいうマイペースな自己中心的傲慢ジジイはよ、他人の気持ちがわからねーんだよ。だから怖い人間がガツンと言う必要があるってわけ」


「そうか。エドガーの中では、僕は怖い存在ということか」


 蓮さんが冷静にそう返すと、エドガーは数秒置いて、


「腹減ってこねえ? さっきどらやき喰ったら、何だか腹減ってきた。あーうまい鮨くいてーなー」


 そんな風に、大きな伸びをして話をそらす。またいつものエドガー坊ちゃまのわがままが始まった、と思ったが、実は俺も同感だった。これ以上喜撰、フォルセティさん、ハレルヤの話し合いが長引くのもつらいし、ちょっとお腹も空いて来たかも。


 俺は商人の寝床を展開し、エドガーに「干し肉とクッキーならすぐに出せるよ」と手のひらにそれらを乗せてみせる。するとエドガーは鴉の様に素早くひったくると、大口の中にまとめて放り込む。そしてまた手を伸ばし、


「おい、水!」


「俺は召使じゃないんだけど!」


「じゃーシェフ! 水を注文する!」


「はいはい……わかりましたよ……」と俺はぼやきながら、商人の寝床から瓶に入った水を出してエドガーに渡す。何だか自分がエドガーのための高級な冷蔵庫になった気分だぞ!


「あーちょっとは腹が膨れた。ふう。てかよ、蓮、やっぱあいつらに一言いってくれないか? 俺らの存在を無視して、何時間でも話し合いをするつもりかもしれねーぞ」

 その言葉を受けた蓮さんは、なぜかそっぽを向いた。何でだ? と思ったのも一瞬。蓮さんが向いた方向、草むらの中から三人の姿が現れた。また幻術の類か? ジパングの人らは得意なんだよなあ……びっくりするから控えて欲しい……


「その様子だと話し合いはすんだのですね」


 蓮さんが穏やかな声でかける。ゆったりとした足取りでこちらに近づいた喜撰の顔は、晴れやかとは言い難いような……しかも蓮さんの質問にも答えないし。


フォルセティさんは常に顔が怖いから参考にならないし……


 でも、普段と変わらないのは彼もそうだった。


「うん。ワンタイ諸島までは船で半日位だっけ? 楽しみだね。僕さ、わりと船が好きなんだ。船の上にいると海風が翼の上を走るだろ。あれが気持ちいい」


 ハレルヤが上機嫌でそう言った。彼はエドガー坊ちゃま並みのマイペースだな……でも、一応話し合いはすんだらしいし、全員不機嫌そうというよりかはいいのかな?


「なあ、どうせならあんたも来てくれよ。龍の目覚めについて聞きたいこともあるしよ。それにリッチだか天人だか、結構面倒なんだ。世界の危機って大事なら、ジパングの人間だって関係ないわけじゃあない。あんたがいると、こっちとしては助かるんだけど」


 エドガーは身体を起こし姿勢を正すと、喜撰に向かってそう告げていた。ちょっと意外だったけれど、喜撰が手助けしてくれるとなると、かなり心強い。エドガーもそれだけ、今回の戦いが激しい物になると覚悟しているんだ。


 でも、喜撰は相変わらず口を噤んだまま。心なしか、どこか暗い顔をしているような、考え事をしているような気がする……


「おいジジイ! ぼけるには早いぞ! はい か いいえ で答えてくれよー」


 エドガーがそんな失礼なことを言うと、さすがに喜撰は大きな声を出した。


「わーっとるわ! この若造! お前らが持ち込んだ問題じゃ。お前らでなんとかせえ! 全く、ここまで教育を受けていない若造と話すなんて何年振りか……おったまげるわい!」


「俺とは数ヶ月前にあったはずだろ。もう忘れちまったのか?」


「忘れとらん! 若いのにへりくつばかり得意で、聞いてるこっちの頭が痛くなるわい。こんな躾のなってない奴が聖なる龍だとは、頭が痛い」


 あ、そうなんだよな。エドガーってやっぱり聖なる龍人なんだよね。でもエドガーの振る舞いを見ると、聖なるという意味が何なのか分からなくなるけれど……光のエネルギーを操れるって意味合いでいいのかな?


 不満げな喜撰はフォルセティさんの顔を見て言う。


「こいつはあんたのところの血族なんじゃろ。しっかり教育してくれんか? わしゃ、かなわん!」


「いや、知らんな」と、フォルセティさんは目もあわさずに刺すような声色で返す。それを目にした喜撰は苦い顔。あーもう面倒くさいな! フォルセティさんとエドガー親子だけでも相当なのに、喜撰もからむと話の収拾がつかなくなるぞ!


「喜撰殿の助力は、ワンタイ諸島へ導いていただけることで十分です。深く感謝しています。今後の出発の予定はどのようになっていますか?」


 蓮さんが助け舟を出してくれると、ようやく喜撰の気持ちはおさまったのか、深いため息をつく。


「この場を立つだけならすぐにでも可能じゃぞ。いいのか?」


 蓮さんがぐるりと俺達を見回している。


「大丈夫だと思いますが……」と蓮さんが返すと、可愛らしい声がした。


「蓮!」という声と共に、草むらから現れて蓮さんに駆け寄ってきたのは竹義。手に持った封筒らしきものを、蓮さんの手に押し付ける。

「お金。蓮はいつも貧乏だからあげる」


 おいおい。いつも貧乏ってのは、失礼じゃないのか? 俺がそんなことを感じると、変な声がした。音の方を見ると、エドガーが笑い声をこらえたけれど、噴き出してしまったらしい。右手で自分の顔を覆いながら、口元は緩んでいるぞ。


「ありがとう。でも、僕は今お金に困ってないんだ。竹義が自分のために使いなさい」


「いらない。竹義はお金なくても暮らしていけるんだ。だから蓮が持っていた方が、お金が喜ぶんだ」


「よいよい。碌典閤、もらっておきなさい」


 喜撰のその言葉を聞いた蓮さんは、小さく「ありがとう」と言って、封筒を懐へと入れた。竹義は小首をかしげると、どこかへと駆け出して行った。やっぱり、不思議な子だなあ……


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