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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第八章 買い出しに


「無くなっても、必要ならまた見つければいいよ」


 ハレルヤはさらりと、そう口にした。するとエドガーが上機嫌でそれに乗っかる。


「おー分かってるじゃねーか。出し惜しみなんてしなくていいんだよ。その時必要な物はどんどん使う。なんかあったらその時調達すればいい。それが冒険者ってもんだ。貴重品だからって後生大事に抱えてたら、宝の持ち腐れだぜ」


 エドガーの意見も分からないことはない。でも、俺はある疑問がわきあがってきたのだ。


「そうかもしれない。ただ、リッチとの戦いでピンチになった時に、その転移水晶のおかげで命が助かるかも。今使うのも選択肢としてはありかもしれないけど、緊急事態を考えると、やっぱりもったいない気がしちゃうんだよね……」


 俺がそう言葉にすると、ジェーンが少し考えこむような顔をして応えてくれた。


「そうね。アポロの言うことも分かる。でもね、転移水晶を緊急時に短時間で使用するとなると、使用者本人だけしか転移できないと思うわ。しかも、緊急時に使うと移動する先が変な場所だったり、長距離移動ができなかったりするの。転移水晶の力を引き出すためには、使用者が行きたい場所をしっかりとイメージすること。普通は一度行った場所しか使えないはず。そして、同行する者たちがいるなら、その人たちのことも一緒に転移するイメージをしなくちゃいけない。だから、緊急回避目的なら、持ち主以外もワープさせるのは難しいと思うわ」


「そっか……うーん。でも、この持ち主はハレルヤだし、ハレルヤだけでも危機から逃れる手段はあった方がいいと思うんだけど……」


 俺はそう食い下がるが、


「大丈夫だよ。僕、こう見えてすごい天使だからさ」


 ハレルヤが軽いノリで俺に声をかける。こう見えてって、どう見てもすごい天使だとは思うんだけど。


「いいだろいいだろ。本人がこう言ってるんだ。後はあのエノク教会の三人に報告してさっさと終わらせちまおうぜ」


 エドガーがいつもの雑な感じでそう告げた。


「皆、それでいいかな。もしいいなら、僕からあの三人に報告しに行こうと思うが」


 蓮さんがそう尋ねてきた。ジェーンやスクルドは同意を示した。ってことは、全員が転移水晶でワープしようって意見でまとまったのかな。俺も少し迷ったが、賛同する。蓮さんは「出る準備をしておくといい」と言い残し、静かにその場を後にした。


「水や食べ物とか、少し補充しておいた方がいいかな?」


 スクルドが俺に尋ねてきた。


「そうだね。ワンタイ諸島でも何か買えると思うけど、少しだけ補充しておこっか。俺は商人の寝床で沢山持てるから、パーティの分は買っておくよ。あ、そうだ。パーティの分は中に入れて保管してあげる。すぐに使う物や貴重品だけ自分で携帯してもらって、その他のはバッグや袋ごと後で預かるよ」


「了解、じゃあ私たちも出る準備するし、アポロとスクルド、買い出しよろしくね」


「うん。じゃあ行ってきます」


 ジェーンの言葉に、スクルドは元気よく返した。彼女は俺の方を向き、


「ホテルの近くにマーケットがあるから行こう」と言って来た。俺は頷きながら、スクルドの顔色を伺っていた。


 少しは、元気になったのかな。彼女のことだから強がったり無理しているのかもしれない。でも、落ち込んでいる顔よりもずっと、今のスクルドの顔の方が良かった。


 ホテルの近くにあるマーケットは、ぱっと見は普通に賑わっている感じに見えた。街の蛇が壊れて、人々が混乱状態って聞いたけど、もう収まったのだろうか? それとも騒いでいたのは一部の人だけなのだろうか。


「お店はもう、普通にやっているみたいだね」と俺はスクルドに声をかえた。


「うん。でも、信心深い人は街の礼拝堂にこもっているみたい。さっき街の人に教えてもらったの」


 それを聞くと、黒夢姫を開放した? 眠りにつかせた? 俺達に責任があるように思えたけど……あの場はそうするしかなかったと思うんだ。自分たちがしたことが正しいって、自信を持っているわけではないけどさ……


 マーケットはそこまで広いわけではない。ちょっと歩いたらすぐに終わりが見えそうな規模だ。でも店の前では褐色の肌に、目元に白い化粧をした男女が客引きをしている。それを見ると何か買いたくなってくるのだ。こじんまりとしていても、やっぱりマーケット、市場ってわくわくする。


 数分で出店の商品を一通り見ることができた。ぱっと見だけれど、全体的に物価が高い気がした。ジャザムは砂漠の街だから物が手に入りづらくて、その分高いのだろうか。それに、食事もあんまり美味しくなかったから、ここで色々買うのは止めた方がいいのかなあ。


 俺はスクルドを少し店から離れた所に呼ぶと「ホテルの食事が口にあったか、正直に教えて」と質問をしてみた。彼女は少し困った顔をして黙り込んだ後で「うーん。それなりに美味しかったと思うよ」と言ってくれた。


 まあ、まずくはないって感じなのかな。アカデミーでルディさん達が振舞ってくれた料理とは、雲泥の差だと思うんだよなあ。でも、どちらにしろここで補給しておいた方がいいだろう。


 俺はパーティの分の水、干し肉、チーズ、平べったいトウモロコシのパン、クッキー、紅茶葉を買う。そこから少し離れた、人けのない場所に移動すると、両手いっぱいの荷物を商人の寝床に入れていく。大量の商品を商人の寝床に入れていると、俺もちょっとした商人気分になる。アーテイファクトを扱える人が貿易をしたら、ひと財産築けそうだなあ。まあ、俺はお金儲けがしたいんじゃなくて、冒険者だけどね!


「これ、ほんと便利だよね。ありがとう、アポロ」とスクルドが明るい声をかけてくれる。俺はその笑顔に「うん」と元気よく返した。


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