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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第五章 エドガーの目ざめ?

 目覚めは悪くなかった。疲れが残っているわけでもなさそうだし、変な緊張感もない。俺は顔を洗って歯を磨いて、それから商人の寝床の道具整理をしていると、扉がノックされた。


 ドアを開くとホテルの人で、朝食を運んできてくれた。テーブルの上に並ぶのは前も食べた平べったいパン。えんどう豆とトマトのスープ。それとパイナップルとグリーンバナナ。


 そんなに美味しいってわけではないけど、出されたものはきちんと完食する。俺は食後にお茶を飲みながらぼんやりしていると、いきなり乱暴にドアが開かれた。


「入るぞ」と言いながら既に部屋に侵入しているのは、エドガー! ん? なぜかその後ろにハレルヤの姿もある。この二人って面識がないはずだよね? どういうことだ?


 エドガーは大きな身体をソファに預けるとにやりと笑い「まったくお前はあのアンドロイドのゼロといい、変な奴ばかり集める能力があるな」


「変じゃないよ。僕はただの堕天使だ」とハレルヤが真面目に返す。


「あのー……エドガー坊ちゃま……いきなり来てどういうことでしょうか……」


 俺が困惑しながらそう告げると、エドガーは先程のふざけた態度から一転、少し真面目そうな顔つきで話し出した。


「さっきロビーで会った蓮と話したんだけどよ、どうやら本当に、あのクソオヤジと共に行かねーと、問題の朱金の天人の力を無効化できないらしいんだ」


「うん。俺もそう聞いているけど」


俺は「でも、問題はエドガーが首を縦に振るかどうかってことなんだよなあ」という言葉を飲み込み、返事を待つ。エドガーは首を一回ひねり、ため息も一つ。


「負けらんねーんだ。二度目はない」


 そこには色んな思いが込められている気がした。エドガー自身のプライドの問題もあるだろう。けれど、エノク教会が動いているということは、世界の危機というのがリッチの放言だとは思えない。


「俺一人でどうにかなる相手ならいいが……悔しいけどそういう相手じゃねえ。俺もよお、目覚めて新しい力を手に入れて大活躍するつもりが、いきなりクソオヤジと対面とか、冗談きついぜ」


 エドガーはそう苦笑した。そこにハレルヤが呑気な声で「でもパーティの連携で強敵を倒すってのも冒険の醍醐味だからね」と声をかけてきた。


 おい、そんなこと言ってエドガーが怒……らない? あれ? 普段のエドガーならこんな茶々を入れられたら、文句の一つ位返しているはずなんだけどなあ。それどころか、

「まあ、エノク教会の連中と共闘なんて最初で最後だろうし、せいぜい楽しんでやるよ。あいつらにはリッチやリッチが生み出すアンデッド共の処理でもさせておいて、俺らが本命をいただいてやる」


「そっかそっか。でもさ、話を聞く限りエドガーの新しい能力は、リッチを退治するのにとても有効だと思うけどね」とハレルヤ。彼はいつの間にか、ソファに座るエドガーの横に立っていた。


 それを聞いたエドガーは口の端でにやつき「まあ、それもそうだな。どっちも対応できるってのは俺の強みだろうな」と上機嫌。


「なんか、二人気が合うね。ちょっと意外だ」


 俺がそう素直に口にした。すると、エドガーがハレルヤを指さし言う「俺さ、こいつとガキの頃会ったはずだ」


「え! どういうこと? 昔の友達ってこと?」


 意外な告白に俺は驚いてしまった。てっきり、ハレルヤは俺と関わり合いがある人物だと思っていた……アーティファクトの天使だし、俺にピジョンブラッドを預けてくれたし……たしか、俺に「久しぶり」って言ったよな? 


 まあ、そうは言っても未だに謎の人物だってことに変わりはないんだけどね……


「俺はよ、ガキの頃はちょっとした問題児だった。でも、一応ガキだし、親の言うことはを完全無視はしていないから、エノク教会に洗礼に行かされてよ。とは言っても、洗礼が何のことかガキだし理解してないわけよ。って、今もよく分かんねーしどうでもいいけどな! でさ、大聖堂の中で、どうでもいいジジイの有難い祝詞を受けた時に、見たんだ。天使を。羽の色が薄紅色だった。普通の天使は白い羽を持っているはずだ。だから見間違いとは思えない。色のついた特別な羽の色は、上級天使、大天使や熾天使の証だろ? おい、答えろって。俺があの時見たのはお前なんだろ?」


「幼い頃のエドガーが、教会で洗礼を受けている時に、呼び出されたのがハレルヤってこと?」


 俺がそのまま質問を口に出した。でも、ハレルヤは微笑を浮かべるだけ。


 ん? 朱色の翼って、ハレルヤが力を開放した姿だよな。今のハレルヤの翼の色は短い部分が緑で長い部分が赤だ。


「なあ、エドガー。エドガーはハレルヤが力を開放された姿を見たの? 今のハレルヤの羽の色は、赤と緑の二色なんだけど」


 俺がそう質問をすると、エドガーは眉根を寄せ大きな指で頭をかく。


「力の開放? よくわかんねーこと言うなよ。こいつの羽に緑の部分はあるけど、なんかピーンと気づいちまったんだよ。つーか、一部でも赤色の羽の天使なんてそうそういるもんじゃねーだろ」


「まあ、そうかもしれないですけれど……」


俺の弱気な返事に、エドガーは不満そうな声で続ける。


「こいつ、さっきからしらばっくれんだよ。赤い羽根の天使なんてそうそういないだろ? 流石に顔とかまでは覚えてねーし、見えたのも数秒間だけだけど、かなり妖しいんだよなー」


「まあまあ、天使にも色々いますから。それにエノク教会で洗礼を受けて、堕天使が見えるってのは変な話だよ。興味があるなら、教会のお偉いさんがいるんだし、エノク教会における天使について教えてもらったらどうかな?」


「あいつらに聞くわけねーだろ」と言いながら、エドガーはハレルヤの肩を軽く小突く。ん? やっぱり仲がいい……エドガーが女性以外にこんな態度をとるのは珍しい気がするぞ……


 俺のそんな些細な疑問を察知したかのように、エドガーがぼそりと口にした。


「妙な話なんだけどよ、試練を終えたせいなのか、俺は天使といると調子がいいのかもしれない」


 そう言うと、エドガーは立ち上がり、いきなり俺の頭を優しく撫で始めた。


 俺は牛とか馬じゃないんですけど……そう思いながらも、抵抗したら手荒く扱われる未来が見えているので、俺はじっと動かなかった。


 俺は半目で無言の抗議をしたが、エドガー坊ちゃまは全く意に介さず、好きなだけ俺の身体をチェックして、それからソファに座る。


「変だなー。有翼族と天使の違いが分かんね。つーか、アポロは天使じゃねーはずなんだけどな……なんだろ。前はただのよく分かんねー生意気なガキだったんだけど、今アポロが近くにいると、俺の聖エネルギーが満たされるというか、安定するような感じがする。ちょっとうまく説明できねーな。俺も新しい力に目覚めて間もないし」


「それは……龍の試練によって、エノク教会の人間としての力に目覚めたってこと? 聖なる力を得たから、その影響? って! 聞けばいいじゃん! エノク教会の人が三人もいるんだから!」


 俺の正論に、当然エドガー坊ちゃまはふてくされた顔をする「聞くわけねーだろーが! 何度も言わせんな!」


「てか、多分エノク教会は関係ない気がすんだ。だって、ギルディスやグレイやあのクソジジイの近くにいても何も感じない。でも、ハレルヤとアポロは違う。お前らからは聖なる気? みたいなのを感じる。多分あれに似てるんだよ。魔導士は魔力感知とかできるんだろ? ジェーンなら水の魔力が豊富な場所が心地いいし、それを感じるみたいな」


「いや、ですからエドガー坊ちゃま、それをフォルセティさんに聞くのが、一番話が早いと思うんですけど……」


「喜撰のジジイかレヴィンに聞くのがいいか……でも、あの二人とは当分会える気がしねーし、会いたいわけでもねーしな」


 エドガーは俺の意見を完全無視。どうしてもフォルセティさんに聞く気はないらしい。


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