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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第十巻 凡人の為に戦争の火を灯せ
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第一章 小休止

 皆言葉少なく、ただひたすらにコンパスの光を追って歩いていた。代り映えのしない砂漠の風景は、どこまで歩いたか達成感がなく、じわじわと気力と体力を削る。

 

 でも、本当の問題はそこではなかった。これからどうなるのか、どうするのか、誰も分からない。落ち着いてから考えなければならない。歩いてばかりいると、つい不安なあれやこれやが頭に浮かんでしまう。心配しすぎなのは良くはないと思っているのだけれど、今回ばかりは仕方がない気がする。


 ついに、俺達はあの朱金の天人と戦うのだ。そしてリッチとも……?


 無策で戦ったとはいえ、エドガーや蓮さんまで歯が立たなかった相手だ。神、と呼ぶのが相応しいような存在。俺はその戦いから目を背けることはないが、悔しいけれど戦闘で役に立つのは難しいかもしれない。


 でも、フォルセティさんと無限のひとひらがあるとすれば、勝算は大いにある、はずだ。


 そういえば、朱金の天人がリッチには攻撃をしてきたけれど、俺達には危害を加えなかったことを想起した。奴は俺達を無力化したけれど、それは防衛の為だったのだろうか。


 だが、ジパングで喜撰が「身体が紅玉水晶になり絶命する奇病」の話をしていた。ロ・キュイジヌでも、奇病に犯されたらしき獰猛な兎の化け物に襲われた。


 奇病のおぞましくも美しい紅色。空から俺達を見下ろし、無力化した朱金の男。


 リッチが言う滅びの話を完全に信用したわけではないけれど、このまま放っておくわけにはいかない。朱金の天人と戦わずに交渉できればいいのだけれど……さすがにそれは難しいよな……


 気が付けば俺達はずっと無言で何時間も歩いているらしかった。俺みたいに一人今後のことをあれこれ考えているのかな。


「よかったら少しだけ休憩しませんか。良いペースで歩いていると思うので、夜になる前には街につくと思います」


 蓮さんがそう言葉をかけると、フォルセティさんは無言で軽く頷き、グレイが素早く差し出した水筒を口元に運んだ。エドガーは大きな伸びをして「あーだりー!」と言ってから、自分のリュックから革袋を二つ取り出すと、水を飲みながらナッツらしきものをぼりぼりと食べ始めた。


 蓮さんはその場に座り込むと、瞳を閉じる。ジェーンはフードを脱いで、艶やかな紫色の髪を、白く長い指で撫でる。


「そういえば今更だけど、ジェーンは魔導士なのにずっと徒歩についてこられてすごいね」


 俺がそう声をかけると、彼女は顔色を変えずに返す。


「そりゃあ、ある程度の体力がないと冒険者なんてやってられないわよ。それに、私はちょっと楽が出来てるし」


「楽って?」


「ウォーター・スクリーンの魔法を自分にかけながら歩いているから、砂漠での行動がそれなりに楽になるわね。このフードのおかげで日焼けもしないですみそうだし」


「えーそれなら俺達みんなにかけてよ!」


「何言ってんのよ。そんなことしたら私がすぐにヘロヘロになるじゃない! あくまで微弱な防壁を身体にまとってるだけなんだから。それにここは水の魔力が少ないから、本来なら水の領域の魔法は効果が薄いの。全員にかけ続けるなんて嫌よ」


「そっかそっか。でもさすが高位魔導士だなあ。蓮さんの指輪にジンを突っ込ませて映像にした? 何か不思議な魔法も使ったよね。あれはどういう魔法だったの?」


「ああ、アシャムドゥ・ジンね。風の召喚魔法で、風の精霊ジンに簡単なお願いごとを頼むんだけれど、うまくいって良かったわ。風を起こしたり、少し離れた場所の光景を見たり、音楽を奏でてもらったりとかしてもらえるの。ただ、風の精霊は妖精と同じで気まぐれなのよ。私は召喚士ではないから、召喚獣や精霊との結びつきがそこまで強くない。たまに言うこと聞かずに還ってしまうこともある」


「そうなんだ。高度な魔法が使える魔導士でも、幻獣や精霊を扱うのは召喚士とか精霊使いじゃないと、失敗しちゃうことがあるのか。あの場で蓮さんが修羅にならなくて良かったよ」


 と、俺が思わず口をすべらしたら、蓮さんが片目をこちらに向けている……しかも無言で閉じて、瞑想している……


 こ、怖いぞ……


 俺の気持ちが通じたのか、ジェーンは苦笑いを浮かべる。


「それでアポロはアーティファクトを使う以外で、どんな魔法が使えるようになったんだっけ。私が教えた水魔法をすぐに発動できたから、あんた才能はあるはずなのよね。何だっけ、アカデミーで勉強しても魔法は身に付きにくい体質とか言われたんだっけ? 私はそうは思えないんだけれど……」


「あ、そうだ! キュア・ウォーターの初歩みたいなのは使えるようになったよ! 毒を除去する程じゃないかもしれないけれど、酔っ払いエドガーの酔いを醒ましたり、長旅で臭くなった足の臭いを消したりできたよ!」


「おめーは余計なことを言ってんじゃねーよ!」


 と、いきなりエドガーが俺の頭を叩く。


「そんな殴らなくってもいいだろ! 冒険の役にたってるってことじゃんか!」


 俺がそう反撃すると、柔らかな笑い声がした。爽やかな笑みを浮かべたギルディスだった。


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