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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第三十章 I fall in love too easily

「シェヘラ! 探したんだぜ!」エドガーが明るくそう声をかけた。しかし、彼女は手元に闇のエネルギーを集めると、うめき声をあげる怨霊のようなエネルギー体を放つ。


「エドガー!」慌てて太陽の外套を発動したが、範囲を広くし過ぎたか、すぐに割られてしまう。


 しかし、エドガーはその強力な怨霊を右手で制する。右手には光の盾。これが新能力の一つか。浄化させたか、光のバリアで相殺した感じ。というか、その姿はフォルセティさんに似ていた……


「随分な挨拶だな。俺らにはもう飽きちゃったのか?」


 彼女の表情に変化はなく、口は堅く閉ざされたままだ。しかし第二波の攻撃がエドガーを襲う。おぞましい怨霊がエドガーに向けてうめき声を上げる。だが、それもエドガーは軽く浄化してみせた。言っちゃ悪いが、格が違うって感じだ。


「エドガー。彼女はもう話が通じないのかな?」俺は不安げに尋ねる。エドガーは少し黙り込んだまま、シェヘラを見ていた。


 シェヘラは先程まであんなに元気で楽しそうだったのに。それとも、こちらが本来の彼女の姿なのだろうか?


「シェヘラ。もっとお話し聞かせて欲しいな。駄目かな?」


 俺の問いかけにも、彼女は答えない。まるで、美しい屍かマネキンのように。


 その時、エドガーがそこらに転がっている、財宝の一つを手に取った。それは菫の花が描かれた、少し小ぶりのリュートだった。


 エドガーは臆することなく、物言わぬシェヘラの隣、柩の上に座る。それは危険じゃないか? そう思った時にはもう、エドガーは甘い声で、切ない調べを奏でていた。




I fall in love too easily /Chet Baker  


I fall in love too easily       俺は恋に落ちるんだ、あまりにも簡単に

I fall in love too fast        恋に落ちるんだ、あまりにも早く、

I fall in love too terribly hard    恋に落ちるのは、あまりにもやばく激しく、

For love to ever last        恋が何時まで続くように…… 


My heart should be well-schooled  俺の心はもっと学ばなきゃいけないかもな、

'Cause I've been fooled in the past  だって、昔は適当にされてたんだぜ、

And still I fall in love too easily    でもやっぱ、俺は恋に落ちる、あまりにも簡単に、

I fall in love too fast         恋に落ちるんだ、あまりにも早く。





 相変わらず歌詞の意味は分からないのに、リュートの優しい音色と、エドガーの甘い声に陶然となる。彼は呪歌や魔法が使えないはずなのに、こんなにも人の心を動かす歌を歌えるなんて。俺はこの状況を忘れて、思わず聞き入ってしまっていた。


「随分酷い歌詞の歌なのね。すぐに恋に落ちてしまうの? 悪い人。浮気な人」


 そう、口にしたのはシェヘラだった。その声には多少先程までの調子があったが、その顔や姿は、恐ろしい姿のままだった。


「そうだ。俺は沢山愛を持っているんだ。だから、美女に会う度に、恋に落ちてしまう」


 その時シェヘラは笑い声を上げた。それは悲鳴や嘆きに近いようなものだったかもしれない。彼女の周りに怨霊、悪霊の類が出現し、大口をあけ牙を剥き、エドガーへと突撃する。


 しかし、エドガーに触れるとそれらは瞬時に光の粒になって消える。シェヘラは黒髪に闇の瘴気をからませ、両手で顔を覆う。


「私は屍。私は迷い子。私は物語を忘れてしまった。その私から何を求めるの? 何を奪うの? 無限のひとひらなんて、どこにあるか忘れてしまった。私を殺して、この呪いから解き放たれればいいの……そうすれば、お互い楽になる……全て……忘れる……」


 錯乱状態なのか、本音なのか。そんなことを口にする彼女の手を、エドガーは取った。しかしその手には、皮膚や肉がなく骨だけだった。おぼろげながら、彼女の顔もどこか虚ろ気に見えた。


「デートするって言っただろ。してるじゃんか。そんな顔するなよ」


 エドガーはそう口にすると、哀しそうに微笑んだ。


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