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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第二十九章 星々は夜に抱かれる

「エドガー!」思いがけない再開につい大きな声を上げてしまった。しかしエドガーは案外冷静そうな声で返す。


「シェヘラの語る物語だか魔法だかがおかしくなっちまったのか。でも、俺は彼女から殺意なんて感じなかった。完全にないとは言い切れない。だけど、彼女は俺達に『おはなし』をするのをとても楽しそうにしていた。後さ、よくわかんねーけど、俺らの存在でどうにかなるとか喋ってなかったか?」


「あ、そうだよね。聖なる存在がどうとか。でもさ、聖なる存在ってよく分からない定義だよね。だってエノク教会の人がいたし。俺は飛揚族で聖魔法を今使えないし。エドガーは腕の立つナンパ男だし」


「おい! 最後訂正しろや!! アポロの身体で、俺の新必殺技を試してもいいんだぜ」


 そう言ってエドガーがヘッドロックを決める。く、くるしい!!


「わー! すみません勇者様! エドガー様は大陸一の勇者様です!!」


 ふざけていると、急にエドガーは俺を投げ出す。遠い目をして「大陸一どころか、世界とっちまったかな……」と自己陶酔モード。相変わらずだなこの人は。


 でも緊張感はとれた。エドガーの新必殺技とかパワーアップした力も頼もしい。とにかく進むしかないと、二人で何も起こらない洞窟を進んで行く。


エドガーはシェヘラの名前を呼んでみるが返事はない。あーここにジェーンがいたなら、生命体を発見する魔法のカンディが使えたのにな。でもないものは仕方がない。


ふと、怖い考えがよぎる。この洞窟があの終わりがない『砂の本』のように、続いているとしたら? アーティファクト反応は感じない。ポータルがありそうな気配はない。俺は立ち止った。


「エドガー……ここって、もしかしてループしていてる?」


 エドガーも立ち止まり、少し考えてから口を開いた。だが、語り掛けているのは俺にではなかった。


「シェヘラ。聞こえてるんだろ。俺らは君に会いに来たんだ。もっと物語を聞かせてくれよ。そうじゃなきゃ、首をはねてやるぞ」


 何を恐ろしいことを言うんだ! 万が一彼女が聞いていたら!


 俺がぞっとしてエドガーに文句を言ってやろうとすると、地の底からわくような、威厳のある、恐ろしい調べが聞こえてきた。






来たれ、死よ、死よ、来たれ、

 うるわしき杉のさなかに横たえよ。

消えよ、息、息よ、消え去れ、

 うるわしき無情の人に殺されし。

水松いちいをさした白かたびらを

 ああ、われに着せたまえ。

かくのごと愛に死する者

 世にあらじ。


花一つ、かぐわしき花一つ、

 わが黒き柩にまくなかれ。

友一人、友一人とも

 わが亡骸に泣くなかれ。

悲しみのくり言避けん、

 そのために、人知れぬ墓に埋めよ。

恋人の涙は見まじ。

 

シェイクスピア 十二夜』





再び暗闇が訪れる。しかし俺は慌てずライトの魔法をかけなおす。すると。


目の前にはおびただしい数の、白骨化した死体、骸骨があった。荒れた地の上に転がる屍の山。古戦場にワープでもしたのか? いや、ここは先程の洞窟の中だった。


しかし、その骸骨に交じって光り輝く様々なお宝があった。


孔雀の扇子。火鼠の団扇。象牙の遠眼鏡。アメジストの猫。紺色の鞘に収まった禍々しい刀。紅玉のスリッパ。双子の水差し。玉虫色のフルート。百合の花を抱く白銀の天使像。砂色をした薔薇。水晶の邪神像。黄金羊のケープ。サファイアに覆われている鏡……


 屍の上を、数えきれないほどの宝物が飾っていた。その時俺は、ここが真鍮の都なのだとようやく気が付いた。罠にかかって死んだ者たちが、この財宝のある洞窟に捨てられているということだろうか。何だか悪趣味だなあ。


 その中でもとりわけ異質なのが、大きな黒い柩の上に座り、黒いドレス姿でこちらを見つめる黒髪の女性。


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