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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第二十七章 でたらめはじまりおわり

 王様は手で侍らせていた美女を散らす。しかし、気のせいか隅にいた兵士がこちらに近づいている気がした。でもここまできて後戻りはできない。私は王様が寝そべる空色の寝台の横に座り、話し出した。


 それは、初めて兄弟に話したでたらめなお話。


お洒落な服を着た少年が、森で虎に襲われて、命の代わりに洋服をあげて見逃してもらう。男の子は裸になってしまうけれど、帰宅するなり自分でまた洋服を作る。今度はもっとお洒落でへんてこで派手な服を、森へと出ると、今度はライオンに服を奪われる。その次はチーター、鷹、バイソン、ガゼル。いつしか森は極彩色になっていく。猛獣たちは獲物を狩ることよりも、お洒落を競うようになり、森はほんの少しだけへんてこで平和になった。


 

 私はつい癖で「はい。今日のお話は終わり。いい子で寝るのよ」と口に出してしまった。しまった。でも、口に出してしまった言葉を飲み込むわけにはいかない。王様は顎をしゃくり言った。


「おい、お前ら、出ろ」


 私は今更恐怖で、指先を動かすことさえできずに固まっていた。しかし王様の言葉で、兵士も美女たちも、流れるように退室していく。私は王の腰巻きに、大きなトルコ石のついた短剣がくくり付けられているのを目にしてしまって、もう終わりだと思った。身体が動かせない私は心の中で家族に謝った。


 お父さんお母さんごめんなさい。弟妹たち、元気でちゃんと言うことをきいてね。


 王は首を動かし、小さく息を吐く。そしてたくましい腕を伸ばし、水の入ったゴブレットを手にした。


「夜は長いぞ。次の物語を話せ」


 私の全身に血が通い、思わず頬がほころんだ。さっきとは一転、私の頭の中ではいくつものでたらめな物語が「私の出番よ」と声を上げていた。


 私がちびとのっぽの詐欺師の話を終えたら、王様は大きなあくびをして、もう一つ、今度はあまり長くない話をしろって言ったの。だから、私は子供たちを寝かしつける時みたいに優しく、雲を食べてしまうキリンの話をして、その最中に王様は小さな寝息を立てて、眠ってしまった。


 まさか起こす訳にも行かない。でも、これからどうしたらいいかも分からない。私はランタンの灯を消して、王様におやすみなさいを告げ、ひんやりとした壁を背に、目を閉じて少し休むことにしたの。王様や兵士に何か言われたら、すぐに動けるようにね。


 そう思っていたのに、はっと気づいた時、周りは明るかった。松明の灯りじゃない。大きな窓から降り注ぐ、朝の光だった。私は驚いて辺りをきょろきょろ見回すと、蛇の目の王様と目が合ってしまった。当然私は冷や汗をかいて固まったまま動けない。


 でも、王様は私ではなく兵士に向かって言った「女に食事を用意しろ。こいつはまた夜に物語を作るんだ。殺すなよ」


 それは王様の気まぐれではなかった。私には小さな女中部屋と食事が与えられた。仕事はなくって退屈だったけど、城の中を勝手に歩くことは禁じられていた。やることがないから私は物語を作る。私は、夜が楽しみになっていた。


 お話は幾らでも作ることができた。だってでたらめと思い付きで作られていて、たまに何かの物語を無意識に真似していたり、そこから別の話を自分で勝手に作り出したりしたから。


 でも、不思議なのは王様だった。彼は何でこんなちびっ子たちに向けたお話を喜ぶんだろう。毎夜聞いても飽きないんだろう。


 この城には豪華な書棚があることを、私は配膳係のおじさんから聞いていた。王様なら、色んな本を読めるだろうし、飽きたら新しい物を買い求めることだってできるはずだ。自分で読むのが面倒なら、音読させることだってできるはずだ。


 私は或る夜、勇気を出して聞いてみた「王様、この城にはとても立派な書棚があると聞きました。それらはお読みになったのですか?」


 王様は不機嫌そうに言う「つまらん。お前の話の方がでたらめで面白い」


 褒められて嬉しい反面、やはり不思議だった。お城にある豪華な本。どんなに素敵な物語が眠っているのだろうか。


「読みたいのか」と王様がぼそりと言った。ばれてしまっていることに緊張しながら、私は正直に「はい。読みたいです」と返した。王様は黙り、近くの果物かごに手を伸ばし、アメジスト色の葡萄を一粒口に入れた。


 出過ぎた真似をしたかもしれない。私は覚悟をして、王様の言葉を待った。


「午前中と午後に、古代語の教師をつけてやる。残りの時間で好きな本を読むがいい。だが、読んだ本の物語は夜に話すな。物語はお前が作れ。もし読んだ本を口にした時が、お前の首が飛ぶ時だと思え」


 私は首が飛ぶという警告も耳に入らない程興奮していて「ありがとうございます」と王様に頭を下げた。その時、私は初めて王様の笑顔を目にした。






「あれ? その続きは……続きは? 私、王様の笑顔を見て、それから……」


 その時、シェヘラは少し取り乱したような、混乱したような様子だった。視線は空を見つめ、俺達は映っていない。しかし、その手にはまた本が出現していた。しかし、その本はシェヘラのてからこぼれ落ちた。


 床に落ちた本は、無風なのにも関わらず、ページがゆっくり、めくり続けられている。誰に? どういうことだ?


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