第二十章 デートのお相手は
え? この人も何言ってるんだ? でででデート? っていうか、デートって言って油断させて、やっつけるんじゃないだろうな?
「俺は無限のひとひらなんて興味はない。ただ、貴方との一時が欲しいんだ」
エドガーがいつもの調子でそう続ける。リーダー……大丈夫か? 朱金の天人を倒すため、試練を乗り越えてきたのを忘れたのか? チャームの魔法かかってないよな?
でも黒夢姫も「お上手ね。今まで何人の女性を口説いたのかしら」と機嫌よく返す。
「そんなことは忘れてしまった。貴方を前にしているのだから。俺は今、貴方と共にいたい、ただそれだけなのだから」
「逢引きをしたなら、その重要な物を手放してもいいというのか?」
色男様の三文芝居を、蓮さんが疑問の言葉で中断する。そりゃそうだ。無限のひとひらって、よく分かってないけれど、とても重要なアイテムだってことは分かる。それをお茶飲んでお話しして、あげちゃうって、ありえないよな。
「私、つまらない嘘はつかないの。でも、そこの侍は駄目ね。タイプじゃない。あまりにも闇が深い。うふふ、世界の危機なんて言っているなら、無限のひとひらなんて手に入れるより、そこの侍を始末した方がいいんじゃないの?」
それは挑発だと思うのだけれど、否定しきれないのがなんとも……蓮さんは落ち着いた声で、
「僕は不合格だそうだ。後の皆、頼んだ」
「え、ちょっと、蓮!」とジェーンが声をかけると、黒夢姫は不機嫌そうな声でそれを遮る。
「これから行く先は、幻術や時術の使い手がいないと、迷子になってしまうかも。あ、ポータルもあったかしら。そこにいる、雨を中和した魔導士は何かしらできるのかもしれないわ。でもね、私、女には興味が無いの。興味が無いっていうか、目障りなの。言ってる意味、分かるでしょ?」
「あーら気が合いますね。私も性格の悪い美女っていうのが、世界で一番嫌いなんです」
ジェーン! こんな時に喧嘩してる場合かよ!! 彼女が力を使ったら何が起きるか分からないぞ!! だが、それを聞いた黒夢姫は余裕の笑み。それに少しほっとしたが、対するジェーンは鬼の形相……こんな事態じゃなかったら何をするかわかったもんじゃない。
でも、まあデートって話だからジェーンははなから対象外ってことだよな。他の人がなんとかしてくれる……はず。
エドガーは最有力候補として、ギルディスも中々いいんじゃないかな。紳士だし、男前だし。それを言ったらグレイみたいなやんちゃなタイプが、黒夢姫みたいな大人の女性には可愛らしく映るのかもしれない。って、まさか、フォルセティさん……? それは、ないけど、見てみたい気もするぞ。あの二人がどんな甘い会話を交わすのか!
なんて、不謹慎だけど、俺はこれからの展開を予想していると、黒夢姫はすっと立ち上がり、ゆっくりとこちらへと歩み寄る。彼女が歩くと、周りに光の粒のような、きらめきが舞う。
「エドガー。お供してくれるかしら」
エドガーは慣れたもの、右手を胸に当て会釈をして「勿論。お供させていただきます」
いつもはエドガーの女癖の悪さに困っているけれど、今回ばかりは助かる。新しい力もあるはずだし、エドガーならうまいことやってくれるはずだ。心強いぞ、さすが俺達のパーティのリーダー!
「それと、そこの飛揚族のボク。貴方も一緒に行きましょう」