第十一章 とても小さな希望のような物
いくらなんでもひどすぎると俺が思ったら、エドガーは、泣いていた。蓮さんは、それを見ないようにか、辛いのか、瞳を閉じる。
「絶対にお前の腕を復活させるからな。大陸一の冒険者の俺様がいて、アーティファクトの力を引き出すアポロもいるから大丈夫だ。超再生医療、っていうアーティファクトの話、前にクエストで聞いたし。魔法だってジェーンに聞けば色々わかるだろ。マジックアイテムのエリクシールとか何かでどうにかなるかもしれない。お前は、治る。俺が、治す。いいな。だから勝手にどっか行ったり自殺したり絶対するんじゃねーぞ。絶対だからな。お前が今すぐにでも死にたがってんの、俺は分かってるんだからな。死ぬなよ。頼むから。それだけ、お願いだ。約束、してくれ」
「ああ」と、蓮さんは言った。すると、わざとらしく、エドガーはおどけるように、
「そういえばアポロ、あの氷のアーティファクト壊したんだって? 弁償として、お前の隠して着けてるブラッドスターを俺にもらおうか!」
「だ、だめ、それだけは! だってそれはお父さんからもらった……」俺の服の中から引っ張り出すと、
「まって! それ私に貸して!!」そう言ったのはアイシャだった。俺は勢いに負けてアイシャにそれを渡すと、
「やっぱり。貴方が、飛陽族で、あそこが太陽の神殿。私が持った、普通なら何も起きないペンダントは、90%以上、貴方が持っているブラッドスターと同じ物。でも、それは普通の人が持っていると、数分で、溶けてなくなる。それに、ここは太陽の神殿。つまり、ブラッドスターを持ったアポロと何も持たない私の二人で行けば、太陽の祭壇に向かえるかもしれない」
「は? 何一人納得してるんだ、ちゃんと説明しろ」とエドガー。それに僕の宝石を軽く掲げるアイシャ。
「私が手にしたのは、邪気が感じられない、でも私の持っていたペンダントと互換性のある物だと思う。太陽の神殿に捧げるには、あの村で作るブラッドチャリスでなければいけないけれど、それは闇と光の力を持つ。でもその闇の力がおそらく、私の身体と反応を示して災いを引き起こす。でも、その、彼の輝くブラッドスターなら、それを起こさずに、祭壇を起動できるはず」
お、それはさすがに盲点というか、だから里の人が俺のことで騒いで……てか太陽の祭壇、って時点で飛陽族関係かもって気づけよ俺!!
「は? よくわかんねーことをガタガタいきなり喋り出して、今更、またアポロを危険にさらしてどうすんだ?」
「私が、完璧な天使になったら、生贄よりも、この方の治療を優先させてもらいます。祭壇に何かアイテムがあるなら、勝手に持ち出して治療のために使います。ダメですか?」
はっきりとした口調で力強く言うアイシャ。エドガーはそれを聞くと、苦い顔をする。少しでも望みがあるならすがりたいのは、俺も一緒だ。でも、あの場所を二人きりで大丈夫か、どうか。
「……アポロ。危なくなったら、自分の命最優先で逃げろ。約束しろ」
俺はこくん、とうなずく。すると、蓮さんが、俺に自分の懐にある財布を持って来てくれ、と言うので従う。この前買った、きれいな翡翠の勾玉がついている。
「一応、うちの国では、これがお守りのはずなんだ。意味はないと思う。でも、もっていきなさい」
「あんたは、自分の心配を、しろよ」という言葉を飲み込む。俺は、この言葉で、泣いてしまった。泣いたまま、全く動けなかった。貴方は人でも、修羅でも、優しすぎる。ずるい。ずるいひとだ。絶対に、俺も、助けます。
「はい。ありがとうございます」とそのお守りを腰につけて、「行ってきます」とアイシャと二人外に出た。それから、疲れと緊張感がピークに達して、床にへたり込んで、ポケットに入っていたマジックポーションを飲んでいると、なぜか翼が温かい。とても強いヒールの呪文?? かなり身体が楽になる。それをかけていたのはアイシャだった。
「な、何で、これを蓮さんに!!」
「太陽の祭壇にたどり着くまで、私は何もしてはいけないきまりがある。そして腕を回復させるほどの、けた外れの能力は、今の私にはない」
「それでも!!! きまりなんて破って後方から回復させていたら、ペンダントなんて割っていたら、蓮さんは! 蓮さんは!!」
やつあたりだと、エドガーみたいに食ってかかっているだけだとは半分わかっていた。でも、俺は、また、ぼろぼろと涙を流しながら声に出していた。ゆらゆらと、腰のお守りが揺れていた。
「貴方達は、間違っていない。それに気づかせてくれた。貴方達が初めて。私は、あの人の腕を治す。私は機械の身体、天使。アポロ。力を貸して。お願いします」
そう言って俺の手を強く握ったアイシャは、泣いていた。とても美しく、痛ましかった。俺は、アイシャのことを誤解していた、というか、何も知らないのだ。俺は鼻をすすり、
「ごめんなさい。俺、君に八つ当たりしていた。蓮さんは、俺やエドガーにとって、とても大切な人だから。でも、アイシャの事情もある。もしよかったら、アイシャの事、少し教えてくれない?」
「はい。分かりました。私は拾い子で、機械の天使という非常に珍しい存在で、お金でこの里に買われてきました」
ぞくり、とした。この時点で、かなり重い展開が予想できてしまう。




