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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第十八章 勇者様の御帰還

途中の壁面には絵画が多く見られる。歩きながらちらと見るだけだけど、とても高価で質の良い油画らしい。描かれているのは、美しい女神のような女性か神話の場面らしきものが多い。あー時間があればゆっくり見てみたいな。


「もうすぐ到着いたします。この先の大きな扉の先が謁見室となっております」


 執事が俺達にそう声をかける。いよいよこの城の主と会うことになるのか。気を引き締めていかないと……


 と、何か変な感じがした。この城の中は涼しいけれど、何か、熱い?


 俺はすぐにそれの正体に気付いた。ポケットの奥から、用心深く小さな黒い球を取り出す。あれ? 心なしか、少し大きくなってる? それに、確かにこの卵から熱が発せられている。あったかいお湯位の温度で気持ちいい……


 って! これって、もしかして!!


「皆さん! すみません! ちょっと待ってくれませんか?」


 俺が大きな声を出すと、足音が止まる。もうすぐ黒夢姫に会えるというタイミングなのだ。皆の視線が痛い……


「ちょっと! アポロ、どういうこと? トイレ行きたいなんて行ったら承知しないわよ」


 とジェーンが少し苛立った口調で口にする。


「違うよ、もしかしたら……」


 俺は、言葉に詰まった。もしかしたら、エドガーがこの卵から出てきてしまう。それは普段なら喜ばしいことだけれど、フォルセティさんがいるこの状況でそれが起きたら……面倒なことにならないか?


 俺のアーティファクト使いの力で、一時的にそれを抑えることは……ああ、そういえば封印したアカデミーのマガタ教授は、割り方は教えてくれたけれど、遅延する方法なんて教えてくれなかったぞ。あーどうしよう!


「アポロ。すまないが、急用ではないのなら、進みたいのだが」


 蓮さんがそう口にする。あーどうしよう。ここは先に説明した方がまだいいかもしれない。俺は手のひらに乗った黒い卵を皆に差し出すように見せ、


「実はですね。この黒い卵はアーティファクトでして……」


 そのアーティファクトにひびが入り、音を立てて粉々になったかと思うと、差し出した俺の手のひらから巨大な虹の柱が出現する。とても美しい、七色の光。わけが分からず、俺は呆然としていた……


 その光が次第に力を弱め、消えていく。代わりにそこに現れたのは、一人の体格の良い男。その服は黒地に金で龍や天使の刺繡が施されており……あれ? これってフォルセティさんとよく似ている……?


 俺達の前に姿を現した、黒髪オールバックの大男。彫りの深い顔で、少しだけたれ目。懐かしい、黒い瞳。彼はドヤ顔で、一番近くにいた俺に近づくと、


「よう。くたばってねーってことはまあ、合格点をあげてもいいか。俺の弟子としてよく頑張った」と言って、軽く肩を叩いた


 その時、俺は自分でも驚いたのだが、物凄く感極まってしまっていた。俺が冒険者になってからずっと一緒だった、自称勇者様。様々な試練を共に潜り抜けてきた、仲間、というよりも、俺の兄貴分みたいな存在。なんだかんだ言って、いっつも頼りになる、やんちゃな自称勇者様。


 俺は、涙が出そうになるのをぐっとこらえる。


「エドガー! 俺達元気だったよ! こんなに早く試練を終えるなんてさすがだよ。驚いたよ。おめでとう。ありがとう、エドガー……」


 自分でも、妙なことを口走っていたと思う。でも、なんて言ったらいいか、分からなかったんだ。何だか、変だ俺。よくわかんないのに、感動しちゃってる。


エドガーは「何だよ、感激してるのアポロだけかよ。美人のねーちゃんはいねーの?」と悪態をつく。でも、心なしか、少しだけ嬉しそうに見える。


「美人のお姉ちゃんなら、ここにいるわよ」


 冷え冷えとした、ジェーンの声。


「おまけに、今から私たちを殺すかもしれないねーちゃんにも会えるわよ」


 ジェーンの言葉で、一気に現実に引き戻される。エドガーは急に周囲をきょろきょろと見回しているが、言葉が出てこない様子だ。そりゃそうだ。混乱して当然だ。


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