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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第十七章 生還者

 ますます分からない。黒夢姫は、もしかしたら神様とか不死に近い存在なのか? 自分の安全、力に自信があるから、暇つぶしに侵入者を歓迎しているってこと?


 そんなことを思いなが執事の後をついて行くと、妙なことに気が付いた。


 壁面には何もないと思っていた。ないというか、よく分からなかった「壁面」に、飾りらしき甲冑や、豪華な額縁に入った女神の絵画、それに扉らしき物まで視界に入った。


 これって明らかに、この執事がいるから、この城の真の姿が見られているってことだよね。俺はジェーンに小声で尋ねる。


「あのさ、壁に画とか扉とか見えるようになったよね。執事がいるからだよね。これって、幻術みたいな感じなのかな? ジェーンは最初から見えてた? というか、この幻を破ることができる?」


 ジェーンは少し間を置いてから、ちょっと悩んでいる様子で答える。


「何かがあるな、ってのは感じてる。でも、明らかな魔力反応がないから、あの執事なしでこの城を歩くのは、ちょっと骨が折れるかも。この執事がどれだけ協力的なのかは分からないけれど」


「いざとなれば城の壁を破壊すればいい……となると、蓮は役に立たないな。物質ではなく、人切りが専門だからな。ははは!」


 そう口にして笑い声を上げたのは、フォルセティさんだった。貴方、息子のエドガーぼっちゃま位無茶苦茶なこと言ってますよ! いや、むしろ、似た者親子ってことか?


 俺はちら、と蓮さんを盗み見た。怒っている様子はない……と思う。


 あ、そういえば、蓮さんはアカデミーで腕の中のアーティファクトを取り出してしまったから、無機物を刀で切る力も失ってしまったんだよな。


 ていうか、外に出るために城の壁を破壊するってすさまじいな! 普通の発想じゃないよ。俺がそんな風に思って苦笑いをしていると、前を向いて歩き続ける執事が言う。


「安心してください。私はお客人を案内し、必要とあれば、出口までご案内も致します」


「……それって、この城に入って、帰還した者もいるってことですか?」


 ギルディスがやや緊張した口調で、そう質問をした。執事は三つの頭の内、一つを俺達に向けた。


「勿論です」


「何人だ? 今まで何人お前は人間を出口まで案内した?」少し興奮気味のグレイがくってかかるように質問を飛ばす。三つの頭は互いに顔を見合わせ、少し首を傾ける。羊頭のそれは、とても奇妙に映った。


考えるような素振りを見せ、執事は答える「ここ数十年では一人だけです」


 一人! というか、この城に辿り着ける人が少ないのか。いや、それもあるだろうけれど、一人ってことは……その先は考えるのは止めよう。これだけのパーティなんてそうそういないぞ。


「ところで、その一人の帰還者はどんな人物なんだ?」蓮さんがそう尋ねた。執事は少し考えこんでから答える。


「そうですね……とても美しい人でした。男性でしたが、まるで女性のような美貌をした、詩人の方だったように記憶しています」


 俺の脳裏に浮かんだのは、闇葉の地下墓地のある土地、ロ・キュイジヌで、出会った詩人さんだった。彼ら、彼女らは沢山いるんだよな。もしかして!


「ねえ、その人はイクイヴァレントなのかな。それと、人間ではなく植物だった?」


 俺の興奮気味の質問に、執事の表情は固まった。しかも、パーティの人達もそうだった。辺りに嫌な沈黙が訪れる。いきなりこんな質問したら、まあ、こうなるよね……


「申し訳ございません。そういったことは存じ上げておりません。ただ、人の形をしていたことは記憶しております」


「そう、ですよね。失礼しました」と俺は軽く頭を下げる。すると、頭の一つが俺に向かって会釈をしてくれた。それが何だか可愛らしくって、少し気が楽になる。


「随分と、物知りなんだ」


 ぼそりと、誰かがそう口にした。え? 俺の空耳? 誰がそれを発したか分からぬまま、何事もなかったかのように、俺達は歩く。


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