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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第十四章 修羅の祝詞 聖騎士の祝福

 ゾンビが修羅の声を聞いているのか、理解しているのかは分からない。しかし、ゆったりと、ゾンビの群れは蓮さんに向かっているらしい。しかも、黒い雨は止むことが無く、蓮さんが消した場所からも、ゾンビが出現している。


「まずいな……しかし……あいつ、すさまじいな」

 

 ぼそりと、グレイが呟いた。そりゃそうだよな。俺も最初に見た時はわけが分からなかった。でも、俺も見ているばかりではなく、自分にできることをしなければ。


 俺は詠唱を続けるジェーンの前に立ち、太陽の外套を展開して盾を作る。


 ギルディスとグレイの作ったバリアのおかげで、ゾンビは俺達に近寄れないようだが、それだっていつまで持つかは分からない。大したことはできないけれど、無防備なジェーンの盾になること位ならできる。


 俺は蓮さんの方を見る。雨で生み出されたり、再生したりしたゾンビの群れは、蓮さんを狙っている。囮役とはいえ、自分の肉を喰えだなんて。蓮さんなら大丈夫だという気持ちと、それでも危険すぎるという気持ちの間で揺れ動く。


 ゾンビが数体、蓮さんに飛び掛かる。


 かと思った時には、もう、ゾンビは細切れになって、地面に転がる。


 しかし、きりがない。奴らは普通のゾンビよりもずっと再生能力が強いようだ。この雨もやむ気配はないし……


蓮さん! 俺は祈るような気持ちで動向を見守っていると、


「フォルセティ。こいつらでは役不足だ。手合わせしないか?」


 は? 多分、俺だけではない。ここにいる全員が耳を疑ったと思う。でも、誰も何も言えない。蓮、さん? 冗談にしては、きつすぎるんですが……


 俺の思考が止まった時、再び黒い群れがえぐれた。蓮さんの周囲のゾンビたちは地面ごと塵になり、影も形も消え失せる。ひらひらと舞う刀、そして宝石のような瞳と、屈託のない笑み。


「フォルセティ。月が喰いたいな。それか、お前の肉も上等だろうな。どちらがいいと思う?」


 俺の全身に寒気が走った。ジパングでの出来事が脳裏に蘇る。修羅が、月を喰い、敵であるはずの四式朱華が光を与えてくれたことを……


 ふと、身体に熱を感じた。あの時のことを思い出したから? いや、違う。それは明らかに何かの力によるもので、不安や嫌な感じが軽くなる気がして……俺は自然と光の方、フォルセティさんを見ていた。


 彼は胸に当てていた右手を天に向けて差し出すと、十字を切り、唱える。


「望まれぬ者にも 等しく安息の日はおとずれる

 神の愛は等しく 万物を抱き慰撫する

 汝は塵なれば塵に返るべし

 恐れることなかれ 汝もまた天の子である」


 フォルセティさんの言葉で、全てのゾンビが消滅していく。蓮さんが使った手段とは対照的に、無数の黒い屍人が靄になり、その色を薄くしながら天に昇っていくようだった。


 場違いではあるが、清々しささえ感じてしまった。あまたの汚れた者たちが浄化され、天に還る様を目にすると、心に熱い物を感じるのだ。


 流石、エドガーのお父さんだなあ……やっぱりすごい人だなあ……


 俺がぼんやりそんな感想に耽っていたが、あることに気が付いた。景色は明るくなって、ゾンビは消えたけれど、黒い雨は止んでない? 


 でも、何かが出現する気配は無いのだが……


「ジェーン。これ以上魔力を放出できるか?」そう、少し優し気にフォルセティさんが声をかけた。ジェーンは、やや苦し気に返す。


「はい……みんな、バリアも解いて、私から離れて!」


 俺達が素早くそれに従うと、ジェーンは両手を天に向け、大きな声で叫ぶ「ミズチ! お願い!!!」


 ジェーンの手から、水が噴射される。それはとめどなく流れ続ける。噴射された大量の水は、大蛇か龍の姿になり、薄暗い天空を長い身体で泳ぎ、すさまじい咆哮を上げた。


 その叫びで、大地が、天が震える。


 その水龍は天上で霧散すると、雨となり大地に降り注ぐ。でも、これは嫌なあの黒い雨なんかじゃない。恵みの雨、俺達が良く知っている雨だ。


 ジェーンはその場にへたりこむ。息を整えながら、ポケットから取り出したポーションの小瓶を少しずつ口にする。


「……フォルセティ様がこの地を浄化して下さったから、私も水の力を優位にして、死の雨を相殺できた、みたいです……ふぅ……ちょっと、ごめんなさい。一分待って。すぐ立てますから」


「構わない。五分まで待とう」とフォルセティさん。これは気遣い……だよな?


 ジェーンに駆け寄り、ギルディスがその背に、ヒール系の魔法をかけているらしい。この人はほんと紳士って感じだなあ。


 そこに、また和服をボロ布にして戻ってくる蓮さん……


「ジェーンありがとう。あのきれいな水で、刀の汚れを払うことができた」


 ジェーンはなんともいえない半笑いのような表情を浮かべ「いえいえ、お気になさらず」と答えた。


 そこにグレイがやってきて、怒気を含んだ声で言う。


「おい、蓮! どんな事情があったにせよ、フォルセティ様へのあの暴言。どういうことだ!」


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