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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第十三章 黒雨の中、舞う修羅

グレイの周りには幾つか、光の盾らしきものが出現していた。でも、丸のみにされたら、バリアの意味がないのではないだろうか?


 大蛇は大きな体をうねらせると、牙を剥き出しにして威嚇する。そして、巨大な身体が倒れ込むように、グレイにのしかかってくる。押しつぶされるか、大口がグレイを飲み込むかと思ったその時、彼は大声で叫ぶ。


「かかったな! くらえ!! ファランクス・ボムズ!!!」


 グレイの周りにはいくつもの光り輝く盾が出現している。それらがグレイの意志で大爆発を起こす。黒い霧の中で、凄まじい光が辺りを照らす。双頭の大蛇の頭の一つは、その爆発で消え去っていたようだ。


 だが、頭はもう一つ残っている。と、その時俺は気が付いた。ギルディスの周りにもまた、無数の光の剣が出現していることを。


 ギルディスは手にした光の剣を高々と掲げると、告げる。


「あまたの星よ あまたの光よ 我の導きに従い 邪悪なるものを滅ぼせ スターライト・アレグロ!」


 ギルディスの言葉に従い、光の剣がレーザービームのように、大蛇の身体中を貫き続る。身体中に穴があいた大蛇は、しぶとくもくたばってはおらず、うねりながらこちらににじり寄り、最後の抵抗を見せる。


 すると、グレイが自分の手に持った盾を何倍にも広げ、突進しながら叩きつける。それは盾での攻撃というよりか、強力な竜巻を生み出すような感じがした。強い風圧が、俺の肌の上まで届いていた。


 双頭の大蛇の姿は、完全にいなくなっていた。


「もう少し歯ごたえがあればいいのにな」とグレイが呟く。それを聞いたギルディスも、無言で余裕の笑みを返す。


 さすがギフテッドのコンビだなあ! グレイが守備でギルディスが攻撃っていうのが少し意外だけど、二人のコンビネーションで、恐ろしい魔物はあっという間に片づけられた。


 そんな風に、周囲が安心感に包まれている、かに思えた。


 あれ? 俺の羽に何かを感じた。続いて、俺の頬にも触れる。見上げると、それは雨、黒い雨だった。ジェーンの魔法のおかげか、今は、身体に変調はない。


しかし、嫌な予感で背筋が冷える。黒い雨って、死の雨のことだよな。


「気をつけろ! ギルディス、グレイ、共に防壁でパーティを包め!」


 フォルセティさんがそう声を荒らげると、二人は無言で向かい合い、両手を合わせる。


 すると、陽光のような光が生まれ、俺達を包む。それは以前旅したヴァルキリーのエリザベートが使っていた、ライジング・ブレスによく似た感覚だった。


 だが、二人で使っているからか、より強力な防壁で守られている感じがする。こんな地で、おまけに雨が降り出したというのに、二人の作り上げたバリアーの中にいると、心地良ささえ感じるほどだ。


 でも、それはあまりにも周りが見えていない、楽観的な感想だった。


 この地に降り注ぐ、黒い雨。すると、地中から無数のゾンビが姿を現した。周囲を見回すと、バリアで守られていない場所、全てからゾンビが湧き出てくるようだ。俺達はゾンビに完全に囲まれている。その数の多さにぞっとする。しかも、その数は増え続けているようだ。


「蓮さん! 俺が炎で焼き払います!!」


「頼む!」


 俺は太陽の紋章に力を集中させると、バリアから少しだけ出て、一気に放つ。炎の波はゾンビたちを焼き払う。ゾンビは炎に弱いはずだから、結構いいんじゃないのか?


 そう思っていた。普通のゾンビなら炎が弱点のはずだった。しかし、俺が攻撃をしたゾンビたちの多くは、焼けた身体のまま、ゆっくりとした動作で、こちらに向かってきているようだった。


 奴らは普通のゾンビではないのか? 見た目では判断できないが、炎の魔法の効果がほとんどないなんて。


俺はどうするべきだ? 太陽の外套でのバリアは、ギルディスとグレイのバリアに比べたらとても貧弱だろう。様々な道具、アーティファクトは戦闘には向いていないものばかりしか思い浮かばない。どうすれば……


「ギルディス、グレイは防壁を張らせている。ジェーンも詠唱を続けなければならない。私が浄化の魔法を使うが、少しだけ時間がかかる。蓮、頼めるか?」


 俺とは対照的な、落ち着き払ったフォルセティさんの声がした。


「了解しました」


 フォルセティさんの言葉を受け、蓮さんは金色の瞳を輝かせ、バリアの中から飛び出した。


 やはり、ぞくり、としてしまう迫力。屍人の群れに飛び込んでいく一人の修羅。


 だが、さすがの蓮さんといえども、この状況はとても危険ではないだろうか? ゾンビの数は少しずつではあるが、確実に増えているようだ。そのゾンビらがうごめき、黒い波の様に、蓮さんに向かって押し寄せて行く。


 と、蓮さんが何か小さな光のような、白いビーズみたいなのをばらまいたように見えた。


 その小さな光はすぐに消えてしまった。しかし、蓮さんの周囲にいたゾンビの腹が膨れ上がり、破裂した。その後には黒い液体が残されているが、再生する気配はないようだ。


 すごい! 蓮さんはゾンビを浄化する手段をも持っているのか!


 だが、その後に、光を振りまく姿は確認できない。そうだよな。蓮さんは魔法使いじゃなくて、多分マジックアイテムを使ったってことだよな。連発は難しそうだ。


 そんな風に俺が心配していると、一閃。黒い波が、えぐれた。


 それは明らかに蓮さんの一振りで起こった虐殺だった。不自然に穴が開いた黒い群れの中、蓮さん……修羅は踊りを舞うように六本の手、六振りの刀を揺らめかせ、金色の目をぎらつかせながら、叫び声をあげる。


「畜生共、餓鬼共、三途の半ばで滅するのは悔しいか。俺を憎め。俺を喰らってみろ。俺を喰らい六欲天を巡ってみないか畜群よ! 俺の肉は旨いぞ。ほうら、ほら。寄ってこい。俺の血は甘露よりも甘く、俺の肉は人魚の肉よりも上等だ」


 ぞくりとしてしまう、恐ろしくも頼もしい姿。畏敬の念さえ覚えてしまうほどの、修羅の姿。


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