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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第十二章 聖鎧開放

俺達はその後、あまり喋らずに馬車に揺られ続ける。モンスターらしき物に遭遇することはなく、馬車の乗り心地も悪くない。しかし、刻一刻と、件の地帯へと近づいているのだ。そろそろ身を引き締めなければならない。


 小さな窓の外の景色は変わらないし、何かの魔力反応も感じない。太陽の外套は役に立つだろうか? 死の雨を中和? 無効化? するのはジェーン頼みだけれど、俺のバリアの力も手助けになればいいな。


 馬車が止まった。前方についてある小さな窓が開き、御者が「ここまでだ。降りてくれ」と俺らに声をかける。その言葉通り馬車から降りると、明るい太陽のある砂漠の地から一変、黒い霧が立ち込めているような、なんとも怪しげな景色が広がっていた。


 その黒い霧は濃く、この先に何があるかは全く分からない。


「これ以上いるのは危険だ。我々は返る。無理するなよ」


 御者は俺達にそう声をかけると、二つの馬車は逃げるようにこの場を後にして、やがて見えなくなる。


 俺がそれをぼんやり見送っていると、ジェーンが跪いて、何やら呪文を口にしていることに気が付いた。彼女は手のひらから水を出し、それで魔法陣を描く。縁には見慣れぬ文字が描かれた、五芒星。そして革袋に入れていた水を空中にまき、立ち上がる。


「移り気で悪戯好きな精霊よ 清らかで恵みをもたらす精霊よ 我は祝福の水を施す者 汝らの力で 不浄の地に一時の安らぎを与えたまえ アークシフト・プライム!!」


 ジェーンが呪文を唱えると、黒い霧が一瞬でかなり薄くなる。そして俺達のいる近くには、城らしき建造物があることが肉眼で分かった。


「この魔法の維持に集中しているから、他の魔法は使えない。それと、もって一時間ってとこかしら。城まで急ぎましょう」


 ジェーンが少しだけ苦しそうに、そう口にした。


 フォルセティさんが「行くぞ」と口にすると、二人の部下は「はい」と同時に答え、揃って先陣を切る。俺と蓮さんはジェーンを守るように、その近くについて行くことにした。


 薄くなった黒い霧の中を、城に向けて一直線に進む。薄暗くって嫌な雰囲気だが、リッチが放つ瘴気とかの、直接身体に害があるものではなさそうだ。もちろん、ジェーンがそれを抑えているからだろうけれど。


 ジェーンは俺達には聞こえないような囁き声で、常に何かを唱え続けている。集中をとぎらせないように、俺達が守るんだ。


 そう思い、周囲を警戒しながら進む。この死の雨が降るという空間にも、モンスターらしき物の姿は見られない。もしかしたら、バリアを張っているから警備は手薄なのか? そんな甘い考えは、目の前に出現した大きな黒い棒によって砕かれる。


 突如目の前に現れた黒い棒。大人一人位の大きさだった黒い棒は、みるみる間に増殖し、膨れ上がり、融合する。黒い棒だったものは、数秒もせずに体長十メートル以上はありそうな、双頭の黒い大蛇へと姿を変えていた。


 蛇といえば、普通は鱗があると思う。しかしこの双頭の大蛇の肌は黒い靄のようで、それが怪物を守るバリアなのか、はたまた実体のない闇の存在なのか。


「ギルディス、グレイ」


 厳しい声でフォルセティさんが名前を呼ぶ。二人はまた同時に「はい!」と答えると、前方に数歩踏み出し、同時に叫ぶ。


「聖鎧開放!」


 二人がそう高らかな声を上げると、二人の身体が甲冑に包まれる。ギルディスは銀の甲冑に所々紅い紋様がされた、騎士の姿。その両手には光り輝く剣。


グレイは重戦士のような甲冑に青い紋様がされた、大きな盾を持った騎士の姿。彼らはそれぞれ変身する。


 かと思うと、グレイはグネグネと巨大な頭を揺らす、双頭の大蛇へと突撃する。一人で突っ込んでいいのか? 俺はフォルセティさんを見るが、彼はその場に立ったまま動く気配がない。


「蓮さん俺達はどうすれば……」と遠慮がちに尋ねてみると、蓮さんは「とりあえず二人に任せた方がいいかもしれない。様子を見て、必要なら援護しよう」と答える。


「その必要はない」と、フォルセティさんが告げた。フォルセティさんが言い切るということは、俺らが手を出す必要はないのだろうか。


 目の前では、大蛇の右の頭が大口を開け威嚇。剥き出しになった鋭い牙からは、黒い唾液が垂れている。幾ら重騎士とはいえ、このままではその大口で丸のみにされそうだ。大丈夫なのか?


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