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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第十一章 人殺し殺し

 俺が一人でウダウダ考え事をしていたら、グレイが蓮さんにそんな挑発的な言葉を投げかけていた。しかし蓮さんは「僕はジパングの侍だ。それ以上話すことはない」とバッサリ。


 だが、グレイは質問を止めようとはしなかった。


「幾らフォルセティ様に近しい人間とはいえ、お前は謎が多すぎる。お前は、人間なのか?」


 お前は人間かって、すごく失礼な質問じゃないか? 俺がまたひと悶着起きないか緊張していると、蓮さんは苦笑しながら言う「人間だ。それに言っただろ。仲良くしよう」


 その時、俺は全身に寒気が走った。お願いだから、これ以上蓮さんを刺激しないでくれー!


 グレイは再び窓に視線を向け「そうだな、失礼した」と言った。


「蓮、気を悪くしないでくれ。グレイは知りたがりなんだ」と、ギルディスがフォローらしき言葉を口にする。蓮さんは軽く「ああ」と応えた。


 グレイはよっぽど蓮さんんことが気になっているらしい。最初は敵対心や警戒心からかと思ったのだが、もしかしたら違うかもしれない。なんだろう、俺の勘でしかないのだが、純粋にフォルセティさんも認める蓮さんの力に興味を持っている、そんな気がするのだ。


 二人共、フォルセティさんには絶対服従って感じがする。でも、こうやって話してみると、わりと気さくな印象がある。「ギフテッド」という存在であっても、変に偉ぶったりはしていないと思う。


 彼らはエドガーと同年代だろうか。グレイはともかくとして、それを考えるとギルディスの落ち着きっぷりと気さくさはすごいなあ、って、聖職者ならこれが普通なのかな? 


「お前、俺のことを覚えていないようだな」


 刺すような声がした。


え? 何を言っているのかと、少し驚いてしまった。それを口にしたのはグレイで、彼は蓮さんをじっと見つめている。蓮さんはその視線をそらさず、いつもの穏やかな調子で返す。


「言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれないか? 申し訳ないが、僕は物覚えが悪い方なんだ」


 博識な蓮さんが、物覚えが悪いだなんてとても思えないけれど……というか、さっきから、蓮さんにからみすぎじゃないか? 二人は初対面のはずなのに、何か因縁があるというのか?


 グレイは何かを抑えたような、やや落ち着いた口調で喋り出す。


「俺とギルディスは幼馴染で、メサイア大陸の端、イコリアという都市で幼少期を過ごした。俺が14歳の頃だ。メサイア大陸、街の近くに人切りの鬼が出て、ギルドから賞金もかけられた。教会も動いた。しかし、多くの者が返り討ちにあい、帰らぬ人となった」


「俺は、その頃既に神聖魔法や剣技を一通り習得していて、街では一番の腕前だった。グレイを除けば、誰も勝負にならなかった。家にはマジックアイテムの退魔の真珠と呼ばれる、魔を祓う力がある宝珠もあった。俺は、その宝珠を手に、誰にも告げず、一人鬼を退治する為、夜な夜な街の周辺をさまよった」


 そこでグレイはどこか遠くを見るようにして口をいったん閉じ、再び喋り始める。


「三日目だ。思ったよりもずっと早く、鬼に出会った。街から数キロしか離れていない森の中だ。鬼は、人の形をしていた。いや、人だったんだ。血走った目、汚れた皮鎧、俺を見つけると男は背負ったレイピアを抜き、一瞬で俺を貫いた、かのように思えた。一瞬の出来事だった。宝珠や神聖魔法を使う間なんてなかった。剣を抜くことすらできなかった。それほどその男の力は、速さは圧倒的で、俺は何一つ、抵抗が出来ずに死を意識した」


「しかし、倒れたのはその男だった。そして、代わりに立っていたのは別の鬼、あんただ、鳳来蓮」


 そこまで喋り終えて、しかしグレイはまだ蓮さんを見続けている。蓮さんはさらりと言った。


「そういうのは多いんだ。悪いが一々記憶していない」


 蓮さんの冷静な言葉に、グレイは怒気を含んだ声で返す。


「殺人鬼を始末したお前は、怯えて動けない俺に言ったんだ『人を殺すつもりなら、他のことを考えちゃ駄目だよ』」


「お前は、俺にそう言って、どこかへと消えた。ギフテッドとして生まれ、とても記憶力が良い俺が、その時のことは記憶が一部抜け落ちている。情けないことに、忘れたいんだ。弱者としての己を。だから記憶の欠落が起きているんだ。しかし、お前の言葉はずっと、呪いのように俺の中に巣くっているんだ」


『人を殺すつもりなら、他のことを考えちゃ駄目だよ』


「あの時の俺は、何も考える余裕すらなかった。しかし、俺は、お前には勝てないのだと、強い敗北感を抱いたまま生きてきた。鳳来蓮、お前は、人を殺すために生きているのか? だから、そんなにも強く迷いがないのか?


 俺は、また一人で何も起きませんようにと気をもんでいた。グレイは幾らなんでも自分の感情をぶつけすぎだろ! ギルディスもたしなめようとしないし……しかし、蓮さんは穏やかな声で言う。


「先ほどもフォルセティ殿と少し話したが、僕は人切りが得意だが、趣味ではない。それに君らは人を助け導くのが仕事だろ。僕とは進む道が違う。幼い君に失礼なことを言ったなら謝るよ。ただ、僕もこれで結構、血気盛んなんだ。それだけの話だよ」


 蓮さんはそう言うと、微かな笑顔を見せた。結構、血気盛ん???? でも、さすがにそれにつっこむことはできないぞ……


 一方グレイは、様々な感情を堪えているような、辛そうな顔をしている。口を半開きにして、閉じ。言葉を探しているようだった。しかし、ばっと、大きく頭を下げた。


「申し訳ない。これで最後だ。もうこのことは言わない。悪かった。今は共にフォルセティ様と任務を遂げる身。愚かな質問は控える……ところで、蓮の剣の師匠は誰なんだ?」


 この人、蓮さん好きすぎだろ! 自分より強い人間が気になって仕方がないって感じなのか? 蓮さんは苦笑しながら「いないよ」と答える。グレイは残念そうに「そうか……」と呟く。


 そんな光景を苦笑しながらギルディスは見守っていたらしく、しかし、制するように「グレイ」と声をかけると、グレイは「ああ」と応じ、二人は口を閉ざした。


 阿吽の呼吸、って奴なのかな。わずかなことで、お互いの気持ちが通じ合う。そういうのっていいな。ちょっとだけ羨ましい。


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