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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第二巻 機械仕掛けの天使と 永久の別れ
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第十章 悲劇

出来上がったのは巨大な氷像。アーティファクトは、粉々になった。でも、奴は浮いている、生きている。俺はその像を、左手に力を込めた鷹の紋章で、ぶち抜いた。すると、姿は消えた。幻?


 とにかく、体力も気力もスカスカで、なんとか飛びながら、戦っている二人の所に行かねば、と思う。エドガーは苦戦しながらも、なんとか敵を倒しつづけている。一番不利なのは、無数の触手とビーム砲の攻撃からアイシャを守りながら戦う蓮さんで、自分が盾になっているとしか見えない場面も見えて、俺は、たまらずそこに向かおうとするが、今の俺が行っても、邪魔にしか……いや、いくしかない! 火球の一つくらいまだ打てる。


 そう、思っていた。しかし、その不気味な影のような敵は巨大な炎の球体になり、それを、刀を捨てた蓮さんは素手で受け止め、


「アイシャ、逃げろ! こいつはお前を狙っている! 早く! 俺も、もたない、遠くに!」

 と、蓮さんの周りに巨大な鳳凰と炎の気が渦巻き、まばゆい光を放ち、それが、消えた。

 

 見間違いかと思った。敵は、消え去っていた。そして、蓮さんは寝そべっていた。蓮さんの両腕は、なくなっていた。腕が、無かった。見間違えではない、腕が!!! 俺は混乱して叫んだ。


「エドガー!!!! エドガー!!! 蓮さんが蓮さんが蓮さんが!!!!」


 エドガーがそれに気づくと、持ち場を離れ、今度は俺に、


「おい!!!! ヒールしろ!! それか何か復活する再生するアーティファクト、何か何かしろおい馬鹿何かしろ!!! なんとかしてくれよぉ!!!」


 俺は慌ててその場に下りて、止血程度のヒールをした。幸いなことに、熱で血は止まっていたが、むき出しの骨が生々しい。蓮さんがこんな姿になるなんて、俺は気を失いかける。でもそんな場合ではない。ジェーンが教えてくれた水魔法。効果は低くても、ジェーンがいたら。こんなことには。そこにいたのは、アイシャ、彼女にエドガーはつめより、


「おい、アイシャ、何だ? 蓮は自分で倒したとして、急に俺の所のモンスターが消えたぞ。説明してもらおうか? お前をかばってこいつは自分の命よりも大切な武士の魂を失ったんだぞ! 逃げればいいものを、両腕を失ってまで、今日会っただけのお前を助けたんだぞ。話せ。そうしないと殺すぞ」


アイシャの、せい? 俺は頭が未だ混乱している。分からない。分かりたくもない。嫌な汗が出て、自分の羽根からも血がぽたり、と滴ったことに気が付いた。


アイシャは少し、顔を背け「私が、里から持ってきたペンダントを祭壇に置けば、私の儀式は完成する。そのペンダントを壊せば災厄は消える」


「ということは、見た目で分かるよな、鎧も魔法も使えない攻撃タイプの蓮が、お前を守り続けている。そして、死にかけている。それなのに、お前はそのペンダントをずっと割らなかったんだな」


アイシャは、言葉につまったが、口にした。


「今まで、こんな守ってくれる人がいなかった。だから、驚いて、頭が回らなくて。ごめんなさい」


「謝罪はいいわ。それでペンダントがないからこの依頼は失敗。そんで、お前すごい天使なんだろ? こいつの腕、戻してくれるわけ?」


「でき、ません」


「そうだよな。行くぞ、アポロ。俺がこいつ背負っていくから、裏・村正は、ここか。下の村で休憩だ。俺も、疲れた」


 何て、言えばいいのだろうか、未だに信じられない。蓮さんは、生きてはいる。でも、自分が両腕を失ったとしたら。生きて行けるだろうか? 特に蓮さんなんて、刀に宿命を受けた男なのに。

 

 逃げれば、良かったのに。エドガーが言うように。相性面でも不利だった。そうだよ、俺があのアーティファクトを蓮さんの相手に使えていたなら。ああ、そしたら俺が死んでいたかな。無意味だ、こんな話。でも、考えてしまう。どうしても。


 あんなに強くて優しい蓮さんにこんなことが起きるなんて、想像がつかなかった。今でも、その痛ましい姿を見ても、これは嘘で、悪夢なんだって思えてくる。でも、これが、現実なんだ。


 俺達はヘルブンウッドに戻ると、教会の一室を借りて、蓮さんを寝かせた。エドガーはしきりに教会の人やアイシャに腕を戻す手段はないのかと聞くが、皆、黙り込んでしまう、すると、弱弱しい声がした。


「エドガー。アポロ。すまない。僕のミスで全員に迷惑をかけた。アイシャ、気にすることはない。僕の鍛錬が足りなかった。策を思いつかなかった。それだけだ。冒険者とはこういう物だ。これからは、別の道を見つける。だから、みんな、そんな顔をしないでくれ」


 そんなこと言ったって、何でそんな、と思っても、口に出せない。口に出したら、泣き出してしまいそうだから。でも、エドガーは怒鳴るように言った。


「何きれいごと言ってやがる、何カッコつけてんだバーカ! 鍛錬が足りない? 違うだろお前がお人よしだからだろ、お人よしの見栄っ張りのクソ野郎。これで冒険ができなくなっていいのか? またパーティ解消か? でも、ろくろも回せねーぞ。どうすんだ? おい、腕がなくてこれからどうすんだ? お前の人生、武士道に修羅道に生きていた人生がそれを失うなんて、死ぬしか、自殺しかねーだろうが!!!」


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