第九章 それでは参りましょう
仮にも聖職者が「後は暴力の出番」って!……豪快というか自信過剰というか……まあ、普通に考えたら、フォルセティさんや蓮さん達がいればどうにかなりそうなのは分かる。
もしかしたら、フォルセティさんも敵の詳細までは分かっていない、断言できないのかもしれない。
とにかく、朱金の天人は「エノク教会」にとって、いや、世界にとって倒すべき存在なんだ。
俺がそんな風に一人気合を入れなおしていると、フォルセティさんは顎を右に向け「馬車は?」と短く告げる。
「はい。準備は整っております」と、ギルディスが即座に返事をする。するとフォルセティさんは立ち上がり、扉の前に立つ二人の方へと歩き出しながら、
「ジェーン、南門まで蓮を案内しろ」と口にする
ジェーンは「分かりました」と、少し緊張気味に返事をした。フォルセティさんはそのまま、二人の従者と共に退室していく。
急に訪れた静寂。
「え? どういうこと?」
俺が状況を把握できずにそう口にするが、二人共答えてくれない。なので、俺は遠慮がちに再び尋ねた。
「今から、例の城に行くってこと? あれ? だってあの三人普段着? みたいな服だったよね。鎧着てない。それと俺は同行していいの? 完全に無視されてたけど……」
「いいわよいいわよ、行きましょ。文句言われたら帰ればいいじゃない。それで、二人共準備はいいの?」
「ジェーンは適当だな……商人の寝床があるし、俺は平気だよ」俺も少し投げやりになってそう答える。もうなるようにしかならない! あれこれ考えずにとりあえず行ってみるか……
「僕も大丈夫だ」と蓮さんはいつもの落ち着いた態度。
「なら決まりね。行きましょ」とジェーンが明るい声を出す。
「そうだ、すまないが一度ロビーに行ってスクルドとハレルヤに事情を説明したい。それと、一日二日で戻れる保証があるわけではないから、二人に滞在費も少し渡しておきたい」
蓮さんがそう告げると、ジェーンは明るい調子を崩さずに返す。
「ロビーに寄る位いいわよ。でも、宿泊費は心配しないで。後払いでこっち持ちだから。特にこの街には娯楽はないけれど、逆に考えると無駄遣いするような心配もないわよ」
「……あのさ、ジェーンはなんでそんなに良くしてくれるの?」
俺がそう疑惑の眼差しを向けるが、彼女はさらりと、
「お金はエノク教会持ちだから」と返す。でも、まだ納得できてない俺は言葉を続ける。
「ジェーンさあ、今回のクエストで死の雨を中和したり、蓮さんを呼んだりして、相当報酬をもらっているんじゃない?」
「あら? 心外ね。私もたまにはお金にならないことだってするわよ。あーあー私って誤解されやすいのよねー。ロアーヌ様とフォルセティ様には恩があるもの。できる限りのことはさせてもらうわよ。それにさあ、私ってセクシー美少女だから、勘違いした変な男にすぐ言い寄られるし、ほんっと、見る目がない男が多くて困るわー」
「え? 美、少女って歳ではないでしょ」
俺がそう言うと首にチョップが飛んできて「うえっ!」と思わず声が出る。ジェーンは冷たい目で俺を睨む。でもこっちも結構痛かったぞ!!
「楽しんでいるところすまない。僕がスクルドとハレルヤに説明をしてくるから、二人はホテルの入り口に向かっていてくれ」
蓮さんはそう言い残すと、さっさと先へと行ってしまった。俺とジェーンは顔を見合わせて、思わず苦笑い。
「そっちは蓮に任せましょ。さあ、これからか弱き『美女』が戦いの地に向かうんだから、サポートよろしくね」
俺は腕につけた銅色のブレスレットを「美女」に見せる。
「太陽の外套っていうアーティファクトがあるからね。これでライトシールドみたいなのを展開できるんだ。だから、ちゃんとサポートできるよ」
「あら、すごいじゃない……でもずるいわ。あんた他にも色々貰ったんでしょ。私達魔導士は、瞑想や修行や詠唱や勉学の繰り返しで、やっと魔法が使えるようになるのに。あーあ。古代魔術師様がうらやましいわー」
「なんだよ! いいじゃんか! それに、俺、アカデミーで言われたんだけど、普通の魔術師の詠唱魔法? 学問で習得する魔法の習得能力が低い、かもしれないんだ。勉強しても魔法が使えない魔法使いなんて情けないよ。アーテイファクト使いの力があって良かった」
「へー不思議な話ね。誰にでも得手不得手はあるはずだし、アポロは火の魔法なら、学べば習得できそうな気がするけど……って、話はこれ位にして、そろそろ行こう。頼りにしてるわよー古代魔術師さん!」
ジェーンはそう言って軽く微笑むと、さっと歩き出す。俺もその横に並ぶと、入り口へと向かう。何だか俺は蚊帳の外って気がしなくもないけど、いいとこ見せてやるぞ!