表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
226/302

第六章 砂漠の街ジャザム マルドゥーク神 そして、疑惑

 すると、彼女は真顔になり、耳に着けていたしずく型のピアスからデータを投射する。そこには「 高位魔導士 レベル42 」と表示されていた。


 俺も自分のギルドリングのデータを投射する。「 古代魔術師 レベル17 」という表示と、ステータスが見えるようになっている。


「あのさ、この技術ってすごいことだと思わない?」


「は? 今更何を言ってるのよ」とジェーン。


 俺はハレルヤとの会話、ギルドリングが、冒険者の情報を集めるために利用されている可能性などについて説明をする。ジェーンは俺の話を静かに聞いてくれた。俺が喋り終わると、彼女は自分の耳に着けているピアスにそっと触れる。


「私はここから魔力反応を感じない。正確に言うなら、ごく微量の魔力反応ならあるかも。ギルドリングやギルドピアスにアーティファクト反応は?」


俺は一応感じ取ろうとするが、やはりそこにアーティファクト反応は無かった。


「ないよ。アンドロイドみたいな、強力な能力者が力を隠しているとか、封印されているとかなら話は別だけど」


 ジェーンは少し顔をしかめて言う。


「アポロが考えすぎなのかもしれないわね。私も蓮の意見に同意かな。私はギルドにそこまでの力がないと思う……まあ、あのハレルヤっていう天使は中々の曲者みたいね。顔はいいんだけど……蓮を黙らせた歌と言い、アーティファクトの堕天使といい、胡散臭すぎて、質問する気もうせる。あーあ! 私の周りには顔が良いけれど、性格に難がある男ばかり集まってきちゃう運命なのかしら!」


「類は友を呼ぶという言葉がありますし」という言葉を飲み込む。ここまできて男のルックスにあれこれ言えるジェーンに呆れるやら感心するやら……


 その時、俺は急にあることを思い出した。エノク教会って、もしかしたらエリザベートとも関係があるんじゃないのか? 存在しない帝國から教会に戻って来た時、皆がいなくなった「事件」について、同じ聖職者なら何か知っているかもしれない。


そんなことをジェーンに告げると、彼女はなぜか腰を上げ、小さなチェストの前に立ち、そこに置いてある白い蛇の彫像を手に取った。


「そういえば、街の名前を言ってなかったわね。この街はジャザム。そして商人の神様、マルドゥークが信仰の対象になっている。白い蛇はマルドゥークの化身とも言われていて、街の人の家には必ずあるそうよ」


「それがどうかしたの?」


「マルドゥークは商人の神様で、色んな人や文化との交流を大切にしている神様なの。他の神様の存在を否定したりしない。だから、別の信仰を持つ人間との関係も良好と言っていいと思うわ。それで、エリザベートって言うのはヴァルキリーでいいのよね」


「うん」


「ヴァルキリーについてそこまで詳しくないのだけれど、彼女たちは他の教会、教徒と仲があまり良くない」


 あ、そうだった。前に詩人さんが話してくれた言葉を想起する。


『ヴァルキリーとしての務めは、死に行く穢れ無き、強き勇士の魂を天界へ送り届けること。トールが来るべき戦いの為に、勇士を集めているのだ。これについては死者蘇生が可能であるこの世界で、ヴァルキリーの存在が非難されることもある。そもそも他の人たちは、トールの唱える「来るべき戦い」なんて信じていないのだ。他の神の信者や肉親からは、死の天使と蔑まれることすらある』


 ジェーンは真面目な顔で言葉を続けた。


「フォルセティ様を見たら分かると思うけれど、エノク教会というのは、他の神様や教会、教徒に対してかなり排他的なの。だから、今その話題を出すのはやめておいた方がいいわ」


 そこまで言われると俺は返す言葉が無かった。でも、もしかして、あの事件って有名なのだろうか? 今回の世界の終わりやら奇病やらに関係するのだろうか。俺が黙ってそんなことを考えていると、ジェーンは「蓮にも話があるから、また後で」と口にして、さっと部屋を出て行ってしまった。


うーん、もう少し話したかったんだけどな。仕方ない。ジェーンも色々とやらねばならないことが多いらしい。


それにしても神様とか教会とかの関係って複雑なんだな。俺が使う魔法は、信仰の力ではなく行使できる力のはずだ。でも、聖職者、教会に属している人たちは信仰の力で奇跡を、魔法を使うと思うんだ。


 俺はアポロという太陽神の名前を勝手に借りて名乗っているけれど、実際の「アポロ神」がいるのか、いたのか、今もその力を持っているのかは分からない。


 神様って、不思議な存在だよな。その姿を一般人は感じ取れないけれど、魔法や奇跡や秘術というのは現実に残されているんだ。


 俺は、いつか「アポロ」に会えるのかな? もしかして飛揚族がその関係者……なんて、できすぎているか! それか、あの朱金の天人が……


 俺はぞっとしてその考えを振り払った。でも、ありえない話ではない。エドガーや蓮さん、リッチですら対抗できない程の力を持った存在。あれこそ神と言っても過言ではないだろう。

 

 でも、俺はそうではないことを願う。俺が知っているアポロ神のイメージは、詩人さんが教えてくれた、音楽と太陽の神様。勇ましくも輝かしい、人々を幸せにする存在だから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ