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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第九巻 懐かしい人と千の夜を抱く黒夢姫
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第一章 高位魔導士様

 ジェーンとは最初のクエストで一緒になった高位魔導士だ。金にうるさくてシビアで冷静、だけど案外優しい一面もある、黒い卵の中に入っている誰かさんとどこか似たところがある女性。たしか彼女もエドガーと同じく由緒ある家柄の生まれだったような。


そういえば、レヴィンの出した難題、エドガーのクエストでも、たまたまエドガーの生家にいた彼女のお世話になったなあ。


 そんな風に俺が色々と物思いにふけっているのだが、ジェーンはさらりと、


「じゃあ私、そろそろ街に戻るから」とフードをかぶり立ち上がる。俺は慌てて彼女の前に立ちふさがる。彼女の手には、小さな革袋が一つ。


「そろそろ街に戻りたいの。用事はすんだし、日陰だとはいっても、こんな場所にずっといたら日焼けしちゃう」


「そんな! ちょっと待ってよ! 俺達パーティじゃんか! そうだ! 俺達がギルドに渡した手紙読んだ? 読んでるはずだよね? 世界の危機に立ち向かってるんだよ! もう、そりゃあ色んなことがあってさあ! エドガーは卵に入っているし、蓮さんは物凄いけど危険な力を手にしたし、俺もアカデミーで沢山のアーティファクトを手に入れたし……」


 俺が興奮を隠せずに一気にまくし立てると、ジェーンは大きなため息をついてぼそりと「関わり合いにならないようにしようと思ったのに、そういうわけにもいかなさそうね」と口にした。関わり合いにならなように、って何だよ! そんな言い方ないだろと思ったが、久しぶりの再会は、やはりうれしくて、俺はちょこっとだけ頬が緩むのだ。


 俺はとても雑だけれど、今まで起こったこと、これまでの経緯や、新しい仲間と同行者のスクルドとハレルヤについて説明をした。ジェーンは「その人らは近くにいるんでしょ。私からも説明することがあるから、なるべく早くここまで戻ってきて」と少し投げやりな様子で口にした。よしよし、一応は協力してくれるらしい。


「分かった! すぐ戻るよ! 待っててね!」


 俺は翼を広げ飛び立つと、力強く羽ばたき、皆の元へと向かう。ジェーンのことだから待たされるのは大嫌いだろうし、猛スピードで戻るぞ! やっぱり、俺は久しぶりの再会にわくわくしていたのだ。


 冒険をしていたらこんなことがあるんだよな。今まで会った人達や街での思い出が頭に浮かぶ。きっとまた会えるよねって、そんな気がする人たちの顔。その上、まだまだ知らない人と場所にだっていけるんだって思うと、また頬がにやける。


 俺が色々な思い出に身を任せていると、あっさりと皆のいる場所へと戻ってくることができた。


皆は日よけ用の大きな簡易テントの中で休んでいるようだ。俺はその中に入ると、スクルドは何かの本を読んでいる。


「あれ、やけに早かったのね」と本を閉じて不思議そうな顔。俺は「うん」と頷くと、静かに瞑想をしている蓮さんに「近くにオアシスがありました! しかもそこでジェーンに会ったんです!」と興奮しながら言った。


「それは良かった。早速出発しよう。彼女の機嫌が悪くなると困るからな」と蓮さんは静かに立ち上がり、テントを手早くたたむ。蓮さんはジェーンのことをよく分かっているなあ……


 テントをしまい、よし、これから向かうという段階で、どこからかハレルヤが飛んで来た。


「出発するみたいだね。じゃあ僕もついて行くよ」


 タイミングがいいな。どこかで見張ってたんじゃないかって思う位。って今は彼を疑っている場合じゃない。でも、ジェーンの機嫌を損ねないように、スクルドとハレルヤには、彼女は基本的にはいい人だけれど、気難しさやシビアな面もあるから余計な質問とかは控えるように伝える。


 スクルドは素直に「分かった」と言ってくれるけど、ハレルヤの「うん、分かったよー」はどうも信頼がおけない……でも、一応やることはやったのだ。後は北の方角へ向かえばいいはず。俺は先頭に立ち、皆がその後に続く。


「寒い地方から来たからか、少しくらい暑くても気分がいいかも」


 後ろからスクルドの声がする「うん、オアシスまで少し歩くけど、俺もこっちの気候の方がいいな」


 俺はふりかえりそう告げる。


「ただ、急に気温の変化があると体調を崩すことがある。特に冒険の後でろくに休んでいなのだから、何かあったらすぐに言ってくれ」


 蓮さんがそう声をかけてくれる。俺はそこまで疲れていないかもしれないけれど、スクルドは少し心配だ。でもオアシスに行って、そこから街へ向かう方が休まるだろう。


 多少言葉を交わしながら、俺達は歩き続ける。目的地が分かっているから、疲れているはずなのに足取りは軽い。って、もうオアシスが見えてきたぞ! 


「皆! もうすぐだ!! あー水浴びしたい!!」


 俺が振り返り、ノリ良くそう言ってから、スクルドのことに気が付いた。女の子がいるのに水浴びって……無理だよな……というか、街に行けばシャワーがあるか! 俺は皆の反応を見ないように前を向き、鼻歌を歌いながら歩く。


「風の流れを感じる。いい気分だ」と蓮さんが静かに口にする。ん? 俺は感じないけどなあ。まあ、オアシスが近いって意味かな?


 深くは考えず、気分良く俺達は進むと……オアシス! 新鮮な水を飲んで、木陰でゆっくりしたいぞ! って、ジェーンはいるよな……まさか、帰ったってことはないよな? 俺は周囲を見回す……まさか、ね?


 飛びあがって周囲を見下し探そうか? そんなことを思いついた。


 けれど、俺達が木々の近くに身を寄せると、そこにはローブを着た人の姿があった。ジェーンだ。俺が近づくと、彼女は立ち上がる。フードを外すと、美しい紫色の髪が陽光を浴び輝く。ジェーンは俺達なんて眼中にないらしく、さっと蓮さんの前に近寄り、妖艶な笑みで口にする。


「久しぶりね。また会えて嬉しいわ」


「ああ。そうだな」と蓮さんは冷静に返しているが、怪しい! 絶対裏があるでしょ、この態度!


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