表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第二巻 機械仕掛けの天使と 永久の別れ
22/302

第九章 少女の覚悟 降りかかる災厄

その平然とした言い方に腹が立って俺が言い返すと、エドガーが俺の肩に触れ、その言葉をさえぎる。


「いけにえの文化ってのは、どの大陸にも、天使にも邪教にも平民の間にもあるもんだ。そこの文化を知りもせずに、無闇に否定するのは筋違いかもしれないからな。それと、あの嬢ちゃん、お前も分かるだろ。覚悟を決めてるんだ。ごちゃごちゃ言うな。俺達は、依頼を受けた冒険者なんだ」


 エドガーの言うことは、多分、正しい。なのに、何でこんなに心がぐちゃぐちゃするんだろう。俺だっていけにえの文化位知っている。ガラクタウンだって、孤児たちがゴミの様に扱われていた。でも、そんなのは、よくないよ。よくない。理屈じゃないんだ。ねえ誰か、良くないって、言ってよ。ダメなのかな。俺、冒険者、向いていないのかな。


 そうしてとぼとぼ無言で歩いていると、突然前を歩く蓮さんが言った。


「そうだ、完全な天使になったら、好きな場所に飛んで行けばいい。それがないなら、うちのパーティに入ればいい。かなり面白いパーティになるぞ。はは」


 蓮さんはそう笑うが、俺も、エドガーも、多分アイシャもあっけにとられたようで、


「そんな馬鹿な発言をしたのは、これまでであなただけですね!」と珍しく感情的な声で言った。すると蓮さんは動じずに、


「これまでで初めてなら、そのことについて考える時間もあるだろう。君の人生は里の物ではなく、君の物だ。悪いな、事情も知らずにペラペラと。気に障ったら、おっさんの戯言だと思って、聞き流してくれ」


 それからは、彼女は黙りこんで、しかし蓮さんと並んで森の中を行く。エドガーが小声で「蓮は昔から子供にバカ甘いんだよ。残酷な奴」と呟いた。そう、だよな。もやもやするが、ここはエドガーが正論を言っている気がする。多分小さい頃からその運命を背負って生まれた子なのだろう。急に自由にしろとかパーティに来るかとか言われても、なあ……


 そして一時間と少しでついたのは、本当に小さな村、ヘルブンウッド。数軒の民家と一軒の大きな教会だけがある村。


「ここで食事、休憩ができますがどうしますか? 私には必要ありません」

 

 それに冒険者三人も必要ない、ということで、近くにある太陽の祭壇のある山登りが始まった。とはいえ、道はそれなりになだらかで、道具を使う必要すらなく、モンスターも出ずに、ハイキングに来ているのかというのどかさ。

 

途中太陽の祭壇に引き寄せられているのか、ソル・ウィスプが何体も浮遊しているのを見かけた。白く発光する光の珠のような下級精霊。けれど、こちらから攻撃しなければ、のどかなものだ。


気が緩んでいたわけではないと思う。最初は多少の会話があったが、低い山の頂上が近づくにつれて、全員無言で、さっさと進んで行く。何も起きなければいい、でも、そんなことはない、と誰もが思っている、はず。


「来ました」とアイシャが言わなくても、分かった。空の大きな裂け目が三つ。登って来た後方、空、そして祭壇へと邪魔する前方。エドガーが大声で言う。


「俺が後方を食い止める。アイシャは動くな。アポロは空を飛んでかく乱か時間稼ぎ。蓮は前で殺してくれ。みんなヤバくなったら逃げるか助けを求めろ、いいな、来るぞ!」


 後方にやって来たのは何体もの、手が何本もあり頭も二つ三つある巨人、大きなうなり声を上げて俺らを威嚇している。それをエドガーが一人で相手をしている。切っても切っても、敵は減らないし、敵の攻撃も手数が多く、苦戦している。


 前方からは人型の亡霊のようなもので赤く発光して、ビームのような物を発していて、裏・村正も、鳳凰も、どこまで効いているのか分からない。


 そして、一番戦闘力の低い俺は、人の心配なんてしている場合ではなかった。


 極楽鳥。名前は聞いたことがあった。羽が虹色で、極めて獰猛で、人どころか、家畜も軽くそのかぎづめでつかんでエサにするという。しかもこいつは目が赤黒で、操られているの

か、闇のモンスターなのか、勝ち目が、無いような気がした。


 しかし、そんなことでいいわけがない。俺は特攻するつもりで、右手の太陽の紋章で炎の大火球を作り出し、敵にぶつけた。効果があったらしい!


 だが、それで奴を本気にさせてしまったようだ。気が付けば、奴の素早い突撃で、俺の翼の一部はもがれ、激しい痛み共に、血まみれになり、飛び方もふらついてくる。

 もう一度奴はやってきて、俺の羽根を、肉を盗んで、またこちらを狙っている。


「あああああっ!!!」と叫び声を上げてしまうが、この空中で助けてくれる人などいない。分かるんだ、自分で、どうにかしなければならないことは。身体が熱を持ち、痛みと興奮が入り混じる。どうにか、反撃しなければならない。


 その次は、すさまじい勢いで突進して、骨の痛みに加え、胃の中の物を吐き出しそうになった。あの鎧がなければ、完全に地に落ちていただろう。


 死の文字が、ちらつく。速さで勝てるわけがない。奴が、また俺を引き裂きにやって来る。俺は魔力を込める。そして敵をギリギリまで引き付けて、エドガーがくれたアーティファクトの力を解き放った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ