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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第八巻 声無しの桂冠詩人と賛美の名を持つ堕天使
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第三十三章 コベック大陸

 スクルドは「幸せになれ」と「命じられた」らしいのに、晴れない顔のまま言った。


「……今の声は、私が質問しようとしていた、光り輝く存在が声だけを私に届けてくれたようです。確信はないのですが、彼からの声のような気がして……」


「ん? だったら俺に言えばいいのに。スクルドに伝える方が都合がよかったのかな。そういえば、あの時には何でそれを言わなかったんだろう」


「それは、もしかしたら、僕らがここまで来てしまって、ハレルヤと出会ってしまったから、慌てて忠告したのかもしれないな」


 え? それは……光り輝く存在と、ハレルヤの間に何か確執があるとでも?


蓮さんがカマをかけているのか、何か思う所があるのかは分からない。しかし蓮さんのその言葉に、ハレルヤはにこやかな表情を崩さずに返す。


「僕は知らないよ。でもさ、僕は有能だ。この先、連れて行った方がいいと思うけどなあ」

 

その妙に図々しい言い回しを聞いて、はっとした。その言葉は、ガラクタの山で目覚めたゼロが僕に言った台詞と重なったのだ。……ベルチェニコフも無理な同行を勧めるのに似たようなことを言っていたか……


でも、不思議とその言葉から浮かび上がったのは、ゼロ。不器用で真っすぐで、しかし計算高い、不思議な僕の友達……


 これって、記憶の同期……なのか? 偶然か? 


 俺の手にあるピジョン・ブラッドは妖しく、美しく輝いている。その不思議な輝きは、ゼロ=エメラルドと、どこか似ている気がするのだ……


 奇病、詩人さん、アリス=テレス、そしてハレルヤ。スクルドの言葉で手がかりを得てここに来たけれど、さらに謎が増えたような気がするなあ。


「この先、どこにいけばいいのかなあ」と俺が歩きながらぼやくと、蓮さんが穏やかな声で反応してくれる。


「ポータルから出て、どこかの都市に向かおう。ギルドや酒場で現状を確認し情報収集をするのもいい。まだ約束の時まで、大体9か月程度はあるんだ、焦らなくてもいい」


 そうだな。焦って解決するような問題でもないし……ってあれ? 何かひっかかるぞ……そうだ!


「ギルドリングって、データ収集のために配られているんですよね? もしその話が本当だとしたら、今後俺達はギルドに行くべきではないような……」


 すると、蓮さんは少し間を置いてからいつもの口調で喋り出す。


「データ収集の目的があったとしても、ずっと身に着けていたんだ。もう遅いだろう。仮にそうだとして、全ての行動を監視、記録するとなると、それこそギルドリングがアーテイファクト並みの性能を持っていることになる。様々な人間に配る物として、それは考えにくい。それに持ちつ持たれつだ。僕らも冒険者としてギルドからの恩恵を受けている。あまり不安がらなくてもいいと思う」


「そうです……ね……」


 うーん、やはり腑に落ちないけれども、蓮さんはギルドよりもハレルヤに関してはすごく警戒しているのは分かった。


 それにさ、ちょっとだけ怖い気持ちもあったんだ。俺の最初の目標は「冒険者になる」ことだったから、ギルドが信用できない存在だとしたら、気持ちがぐらついてしまう気がした。


 勿論、それでも旅は続けるけどさ。


 そんなことを考えつつも俺達はポータルの前までたどり着いた。確かにアーティファクト反応はあるから、この円形の、苔むした板ばポータルらしい。


「ところでハレルヤ、これはどこにワープするの?」


「ああ、なんか暑い地方だった気がするなあ」


 げっ、俺は以前旅した、カラグア大陸の過酷な砂漠の旅を思い出してしまう。でもスクルドは「寒い思いをしたから丁度いいかもしれないですね」とにこやかに言う。


 うーん、まあ、ここにずっといるわけにはいかないんだ。それにここから来た道を戻ることを考えると、どこに行くかは分からないが、ポータルがあるだけありがたい。


「じゃあ起動します。皆静かに集中して、俺の身体に触れて下さい、行きますよ」


 意識を集中させ、俺はポータルを起動する。身体が軽くなり、景色が歪んだ、と思った次の瞬間に、俺達は別の場所にいた。


 乾いた風と熱気が肌を焼く。足元は砂地だが、カラグア大陸の灼熱の砂漠というほどの過ごしにくさはない。一応背の低い草がそこかしこに生えているから、完全な砂漠地帯というわけでもなさそうだし。

 

 辺りを見回すと、どうやらポータルは見当たらない。一方通行ってことか。不便だが、あの場所に戻る用もないだろうしなあ……


「先ずは近くの街を探さなきゃならないけれど、どうしたらいいですかね……」


「まず、ここがどこか分からないと、難しいな」と蓮さん。


「ハレルヤ、ここはどの国でどこら辺の場所にいるか分かる?」


「うーん、ここは暑い国なんじゃないかな?」


 だめだこりゃ。二人で周囲を見回しながら考えつつ、俺は商人の寝床から何か役に立つ物はないかと探していると、スクルドが何か小さな、赤紫色の毛虫を掌にのせて、俺達に見せてきた。いかにも毒がありそうな不気味な毛虫だぞ、これ。


「スクルド、どうかしたの? これ、触っても大丈夫なの?」


「これはモンフォーの幼虫です。幼虫の段階では触っても害はないでしょう。モンフォーの主食はチバと呼ばれる砂虫で、チバやモンフォーがいるのは、コベック大陸の可能性が高いと思われます。コベック大陸は比較的戦乱が少ない地域だと思いますし、ロ・キュイジヌと違って街や都市もそれなりに多くあるはずです」


「お! さすがスクルド!」


「でさあ、そのコベック大陸のどこに向かえばいいかな?」


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