第二十七章 巨大ゴーレム
「離れろ!」
大声で蓮さんが叫んでいた。俺は反射的にその言葉に従いながら、光の盾を生み出す。眼の前にあった祭壇らしきものからは、巨大なつたやつるが絡み合った、巨人の上半身が出現していた。
苔色と灰色が混じった、植物のような亡霊のような、奇妙な見た目のゴーレム。物理攻撃が効くのか、はたまた、その姿は幻影なのか。
気づくと蓮さんはその怪物に飛び掛かっており、大きく飛翔すると一閃、その大きな左腕を切り落とし、泣き別れた腕はとたんに塵になって消える。その蓮さんをもう一方の腕が掴もうとするが、即座に跳躍して退避し、間合いを取る。
さ、さすが蓮さん……と俺が感心していると、地面が大きく揺れた。そうか! ここに来た時と同じく、あの怪物が地震を引き起こしているのか。怪物の瞳のない顔から大きな穴が開き、そこから醜いうめき声が漏れ、大地を震わす。
でも、変だ。あの時は身動きが取れない程だったのに、今はそうでもないぞ。腕が半分ない位で、ここまで威力が落ちるとは考えにくいが……まあ、今はそんなことはいい!
「アポロ! 周りから、植物が!!」
スクルドがそう声を上げた。まるで俺達を包囲するかのように、地面から太い蔦状の、触手のような物が幾つも生えてくる。俺はスクルドの肩を引き寄せ、大きな声で言う。
「炎の力を使う。動かないで!」
「はい!」
魔力を右手に集中させる。それに鷹の紋章の力を意識し、左手を重ね、強く、念じる。周囲を一瞥する。触手はぐねぐねと揺れてはいるが、まだ攻撃をしてくる様子はないようだ。ならば先手必勝だ!
俺は重ねた両手を高く掲げると、熱風で辺りを焼き払う。植物だからか、触手は簡単に塵となって消える。
って、今更だけど、炎の力が戻って来た……? ここの地方に来て、制限がかかってたような感じだったはず。炎の力が戻って来たの、気のせいかもしれないが……
「アポロ……すごい……」とスクルドの声。いやあ、それほどでも……って、違った。蓮さんが、飛んでいた。飛んでいたというか、敵の攻撃を避けながら、豪華なホテルの屋根の上を自由に行き来するかのように跳躍。
ゴーレムは残った腕を回したり、身体の穴から灰緑の毒霧のような物を吐くも、蓮さんにはそれらを軽やかにかわす。あれ、ここまでの身体能力って、もしかして、修羅の力を一部開放している……
そんな思いがよぎるが、蓮さんが敵への頭部への一撃をきめると、怪物は地面をゆるがすうめき声をあげた。やったか?
そう思ったが早いが、ゴーレムの身体は巨大で真っ赤なスライム状に変化していた。血の色をした、ブラッド・スライム? でもこんなに巨大なのっているのか? というか、まずい、鳳凰の力もアーティファクトでの補助手段をも失った蓮さんが、軟体系に太刀打ちできるのか?
「蓮さん! こちらに来て下さい! 俺がなんとかします!」