第二十四章 忠告
全身が少しだけ宙に浮くような、不思議な錯覚をした。でも、俺の足は地面についていて、男の光もなくなることはない。チャイムは鳴っているのか? 音が、するような、しないような……
「あなたはだれですか?」と俺は問いかけた。
「やはり、来てしまったのだな」と、そう、はっきりと声が聞こえた。俺はそのことに小さな感動を覚えながらも、チャイムの音を途切れないようにと意識しながら言葉を続ける。
「あなたは俺を助けてくれましたよね。ここに来てしまったと俺に言うのはなぜでしょうか?」
「お前は、必要な人間だ。故に争いごとに自分から身を投じて欲しくはないのだ」
「争いごと……?」その言葉を聞いて、頭に浮かんだのは朱金の翼を持つ天人との闘いのことだった。でも、なんで彼がそれを知っているんだ? それとも別の何かか? 俺がその質問をぶつけると、彼は一呼吸おいてから喋り出す。
「お前だけではないのだ。多くの、祝福されし者たちが戦乱の渦へ巻きこまれて行くだろう。私ではその運命を曲げることは変えることも叶わないだろうが、このまま見過ごすことはできなかったのだ」
「それは……どういうことでしょうか? あなたも、預言者やシャーマン等の力を持つ者で、これから起きる何かを感じ取っているということでしょうか?」
「お前には音楽と調律の才能がある。それだけではない、鷹と炎もその身に宿している。炎は、とても有用なものだ。しかしお前の炎が争いの火種になるやもしれぬことを決して忘れるな。今の私が話せるのはここまでだ。私や、私に似た存在がお前たち、祝福された子らと出会うだろう。その時まで、お前の力を信じて行動せよ」
男はそう言い放つと、光り輝く姿がみるみる小さくなり、街や森で見かけるような、普通の白い鳩の姿へと変化した。そこには光も魔力もアーティファクト反応もない、ただの鳩、なのか? あの男が普通の鳩を利用して、姿を現していたと考えるのが自然だろうか。
俺は二人に「不思議なことを話す人でしたね」と言った。すると、蓮さんが真顔で、
「僕は、二人の会話が全く聞こえなかった」と返してきた。スクルドも神妙な顔をして言う。
「私は、少しは会話を理解できたと思う。でも、なんとなくこんなことを話していたのかな位の理解度で、二人の会話に参加することは無理だと思う」
「そうなんだ。俺もさ、少しだけ会話がかみ合っていない感じがしたし、相手が全部を話したくないのか時間がないのか、意味深なアドバイスを告げて消えてしまったというか……でも、敵ではないんだよな……」
地下墓地には不釣り合いな白い鳩は、頭を動かしながらちょこちょこと周りを歩いている。俺は改めてあの男の言葉を思い出していた。祝福された人間と言うのは、アーティファクト使いのことだろうか? それか、何かの能力者のことだろうか。
それと気になるのは、ルディさんにも指摘されたこと。俺の力が使い方によってはまずいことを引き出してしまう可能性について。
でも、だからといって、立ち止まることなんてできない。それと、他にも力がある誰かに出会うということだろうか? 他のアーティファクト使い? それとも、ここにいる蓮さん、スクルド、エドガー達ってことか?