第十四章 きっとまた
もし、そうしたならば、この人が復活するのだろうか? そうだとしたら、何が起こるのだろう。気にはなったが、それはテオにも答えられない質問だと思ったし、さすがに聞けないな。
「疲れたろ? これからユシュットのタルトを焼くよ。甘くっておいしいんだ。ユシュットは知ってる? 梨に似てる風味の、真っ赤な果実」
テオが優しい声でそう言うと手を伸ばし、どこかからか、手早く器具を取り出して並べ始めた。でも、俺はその時、すぐにでも会わなければ人がいることを思い出した。そうだ。長居をしたい気持ちがあるけれど、テオの目的は果たしただろうし、だったらここを離れなければならないだろう。
俺はテオにそのことを告げた。すると、彼女は手にしていた丸い真っ赤な果実をかごに戻し、どこかを指さした。
「こっちの方向に歩いて、一時間かからないよ。コンパス持ってるよね。だったらすぐだ。頑張ってね」
やけにあっさりと了解してくれるなあ、と拍子抜けした気持ちになりつつも、俺は「ありがとう」と彼女に告げる。テオは俺に近づくと、その手を軽く握った。
「もう少し話したかったけど、絶対にまた会える。だからその時にね」
絶対にまた会えるって、どういうことだろう? でも、彼女は微笑むだけ。その笑顔をみていると、何だか本当にそう思えてくるから不思議だ。
「ありがとう。じゃあ、またね!」
「うん、またね」とテオは軽く手を振ってくれた。
きっと、いや、絶対にまた会える。根拠なんてないけどさ。俺は強くそう思う。緑のカーテンをくぐって、コンパスを起動する。テオの言葉によると、徒歩で一時間かからないという。自然と、歩調が速くなる。焦りと期待と不安が入り混じって、でも俺は冷静でいなければならないと自分を律する。
どこまで行っても景色は変わらない。森の中だから当たり前なのだけども。というか、最初の頃に出会ったようなモンスターに出会わないだけラッキーと言うべきなのかもしれない。
どのくらい歩いただろう? 数十分は歩いているはずだけれど、一時間はたっていないはずだ。幸いなことに日が落ちているわけではないから、景色は明るいまま。一瞬休もうかとも思ったが、それよりも身体が動きたくって仕方がなかった。
早く会いたい。会えるんだって、強く信じているんだ。
それからどのくらい歩いただろう。コンパスの光が目的地を示した。
しかし、周囲を見回しても、そこは森の中だとしか思えなかった。それらしい入り口や建造物らしきものの残骸とか、地下墓地につながるような物が見いだせない。
何より、そこに人影が無かった。人影というか、森は普段通りの静けさを保っていた。目的地は、見慣れた森の景色だった。
俺は思わずため息を吐いてしまった。疲労感と、小さな希望が消えた感覚で呆然としてしまう。でも、マイナス思考に陥るのは駄目だ。このままだと、どこまでも悪い考えに支配されてしまいそうだ。
俺はゆっくりと腰を下ろし、商人の寝床からチョコバーを取り出そうと手を入れる、と。




