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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第八巻 声無しの桂冠詩人と賛美の名を持つ堕天使
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第十三章 君の音楽を聞かせて

 

俺はおずおずと、アリス=テレスを見つめる。しかし彼だか彼女だかは、相変わらず微動だにしない。それが恐ろしくも、不思議な魅力をたたえていた。


「アリス=テレスは声を奪われているんだ。声だけではなく、身体の運動やテレパシーでの会話すらも」


「それって、死んでいるのと同じなのでは?」という疑問を俺は飲み込んだ。彼、は生きているらしい。もしくは仮死状態にあると言ったほうがいいのだろうか?


「でも、アリス=テレスはなんでこんなことになってしまったの?」


 すると、テオが初めて、少し寂しそうな、遠くを見つめるような素振りをしてみせた。


「詳しいことは僕にも分からない。でも、アリス=テレスが世界に詩と音楽を広めた。だから罰せられたんだ。ずっと、ずっと、気の遠くなるような長い時間。アリス=テレスは声を発することを許されていない。だから、僕らイクイヴァレントが代わりにその使命を担っている。世界に音楽を。世界に詩を」


 世界に詩や音楽を。それって一般人の生活においても素敵なことだと思うけれど、おそらくもっと深い理由がありそうだ。


「そういえば、イクイヴァレントってなんだっけ?」


「詩や音楽はどこにでもある。どこにでもなければいけない。そういうことだよ。だから僕らがいるんだ」


 うーむ、また謎かけみたいなことを言われてしまった。でも、今はそれを考えるよりも、俺がここに呼ばれた意味があるはずなんだ。


「それで……俺にも何かできることがあるのかな?」


 そう口にすると、テオはにっこりと笑顔を見せる。


「歌を歌うか、楽器を演奏してくれないかな? 黙っているように見えるけど、アリス=テレスはちゃんと聞いてくれている。だから、アポロが好きなようにして欲しい」


 俺は少し不安を抱きつつも、商人の寝床からハープを取り出す。象牙色のハープをしっかりと左手で固定し、右手で絃をつまびいてみせる。


 辺りには、心地良い音色が響く……でもあれ? なんか、前は勝手に曲らしきものが演奏できていたような……おかしいぞ? 綺麗な音色はでるけれど、それはメロディーにはならない。俺は楽器の演奏スキルがないのだから、当然と言えば当然なんだけれど……


 ぎこちない、しかし美しい音が辺りに響く。なんとかそれを形にしようと努力はしてみたのだけれど、どうしてもうまくいかない。ちらりと、アリス=テレスの様子をうかがってみるのだが、当然反応は無い。俺はとうとうかんねんして、テオに頭を下げる。


「ごめんなさい。アリス=テレスに反応はないみたい。それにやっぱり俺、楽器の演奏なんて初心者にすらなってないから、彼を満足させることなんてできないよ。これ以上やっても無理だと思うんだ……」


 テオはゆっくりと俺に近づく。そして、何故か俺を軽く抱擁して「ありがとう」と口にした。俺は、どうしたらいいのかまったく分からなかった。でも、その抱擁はすぐに解かれた。挨拶とか、親愛の情を示すとか、そういう意味合いの、だよな。びっくりしたなあ……


 ただ、やはりアリス=テレスに変わりはないようだ。テオも、それについては口にしようとしない。


「あの、ごめん。俺だと役に立たなかったみたい」


 テオは軽く顔を横に振った。


「ううん。世界に歌と詩を。僕らも何度も試みて、思いつくことを色々やってみて、アリス=テレスを待っているんだ。だから、アポロがそれを忘れないでいたなら、きっとアリス=テレスは元の姿に戻れると思うし、僕らはまたどこかで会えるよ」


「どこかで……って、そういえばテオもそうだけど、アリス=テレスもこの家と言うかテントというか……それと共に移動しているの?」


「うん。色んな場所で色んな人や自然の声を聴くのが、アリス=テレスにとって、きっと一番だと思うんだ」


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