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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第八巻 声無しの桂冠詩人と賛美の名を持つ堕天使
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第十一章 フェアリーテイル

 彼女はふと、立ち止まると何故か笑みを向けてきた。


「バウハウスの先生は面白い人が多いけれど、ラズロ=モホリ=ナギーはアポロに会いたがったと思うよ」


「ん? 誰ですか? その先生は?」


「物を写し取り再生する技術を得意としてる」


「え! それってもしかして、あの……人の腕や……身体を再生するような……」


 頭の中によぎるのは、蓮さん、そしてアイシャ。いや、エドガーの母親のロアーヌさんは反魂、リザレクションという高度な再生魔法を使えるという。その人ですら、失われた肉体を取り戻すのは難しいと言っていたはずだ。


 でも! アカデミーの先生なら?


 ……いやこんなことを今知っても、何にもならないけれど……


 そんな曇った顔の俺に、テオは微笑みかける。


「駄目だよ。ぺらぺらな再生だけ。紙や羊皮紙とかなら得意。平面が向いている」


「ぺらぺらな、再生?」


「写真って言う技術なんだ」


「写真……」


 何だかまた不思議なことを口にするなあ……。その写真と言うの魔法だか何かの技術を使える先生が、俺に何か用事があるのだろうか? それとも、単にテオが会わせたいだけとか?

 

 俺がそんな風に尋ねると、彼女はまた立ち止まった。しかし今度は俺の方を向かず、どこか遠くを見つめているようで……


 妙な感覚。遺跡の仕掛けで転移した時と似ているのに、その感覚が続いている。ポータルの利用もそうだが、どこかへワープする時は、それに気づいた時には別の場所にいるのだ。


 その、別の場所へ行く瞬間が続いているような、奇妙な感覚。俺がテオに話しかけようとしたら、代わりに誰かの話し声がした気がした。話し声? 笑い声? 歌う声? 囁くような、こそこそ話のような密やかなそれで、全身にくすぐったいような感覚を覚える。


 その時、気づいたんだ。俺の眼の前を数匹の妖精が飛んでいたのを。


 大きさは手のひらにも満たない。きらきらと光る鱗粉を辺りに散らしながら飛ぶ、透明な羽の彼ら。薄紫色と空色の髪をした彼らは何かを話している? 踊っている? 最初は一、二匹しか見えなかったはずなのに、今は俺の周りを六、七匹以上は飛び回っているようで……


「テオ? 妖精? 妖精がいるの?」


 俺がそう告げると、意外にもその答えは返ってきた。


「運がいいね。一緒に連れてってくれるって」


「それってどういうこと?」


「フェアリーテイルだよ。妖精の通り道」


 テオはそう告げると、右手を掲げ、軽く握った手で三角形を描くような動作をした。呪文の詠唱? いや、口は閉ざされたままだ。すると、妖精の歌声がはっきりと俺の耳に届く。どこかの国の言葉だろうか? エドガーが歌った古い歌にも似たその音色は、意味は分からなくても心地良い。


 じんわりと、身体に熱が帯びていくような、不思議な感覚が広がっていく。少しお酒に酔ったような感覚に襲われる。周囲の緑まで、なんだか溶けたような、ぼやけたような……でもそれも一瞬のこと、視界が開けた時に、俺は別の場所にいた。


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