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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第八巻 声無しの桂冠詩人と賛美の名を持つ堕天使
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第九章 テオ=フラ=トス

 なんだろう。胡散臭い……でも、拒絶するほどの脅威は感じない。俺は少し速足でコンパスの光へと足を進める。その中で、じっと彼の足音を確認する。つかず離れず、しかしはっきりとそれを感じる。俺が土や植物を踏む音から遅れて、少し離れた場所で荒っぽい足音がする。


 オーラスが俺のアーティファクトたちを狙っているというのは、考えすぎだと思う。でも、この状況で失敗を重ねたなら、本当に俺の冒険は終わってしまうかもしれないのだ。神経質になり過ぎるのが、悪いとは思えない。


 とにかく彼の言う通り、俺はコンパスの先へと向かうことだけ考えればいい。その間に彼とはぐれてしまっても、仕方がないことだ。むしろ、早くはぐれてしまえばいいんだ。


 そう思いながら、機械的に脚を動かす。休みは入れず、俺は光を追い続ける。なのに、耳に残る足音。俺はついにちらりと後ろを見てしまった。周囲に生えた背の高い草から、オーラスの頭とリュックがひょこひょこ現れ、小さく揺れている。


 古代魔術師とはいえ、何かを探しつつも俺に追いつけるというのは、彼の力なのか、そういう種族なのか。


 一人でこの地でダウジングを行うだけあって、彼はただの商人というわけではないようだ。仲良くなれば、この状況で頼りになるかもしれないけれど……いやいや、もうその考えは捨てよう。俺は自分の力でどうにかするんだ。今は闇葉の地下墓地に向かうことを考えなければ。

 

 すぐに余計なことばかり考えてしまう。


 でも、なんとか気を張ってないといけないんだ。今は、前に進むことが大切なんだ。


 そう自分に言い聞かせながら、邪魔な樹木は炎で燃やし、少し迂回したりして、前へと足を動かす。すると、この緑生い茂る自然の中で、浮いた存在が目に入った。


 長い黒髪につばの広い帽子をかぶり、黒いコートを着た人が、緑の景色の中でたたずんでいた。明らかに、奇妙な光景だった。しかもその人は手に小さな笛を手にしていて、しかし吹く様子はない。


 立っているだけで人を引き付ける魅力というか、思わず立ち止まってしまう、不思議な雰囲気をまとった人。不思議な……どこかで、会ったことがあるような……


え? そんな……もしかして!


 俺は確信を持ってしまった。いや、でも「彼」の名前を知らなかった。俺は駆け足で歩み寄ると言った「詩人さん! 俺です! ガラクタウンで本や文字を教えてもらったアポロです!」


 彼は黒色の綺麗な瞳を俺に向けた。……彼? あれ、雰囲気が、違う? 何だか、前に会った時よりも柔らかい雰囲気がするような……


 彼女は不思議そうな眼差しを俺に投げかけた。


 彼女、だ。彼、ではない。そこにいた詩人さんは、俺が知っている詩人さんではないらしかった。でも、その顔も風体も、よく似た兄弟か双子のような雰囲気がある。


 戸惑ったままの俺に、詩人さんは薄っすらと笑みを浮かべる。


「テオ=フラ=トス」


「へ?」


「僕の名前。僕らはイクイヴァレントなんだ」


「え? いや、意味が分からないです。え? 何を言ってるんですか?」


 彼女はにっこりと笑みを浮かべ、その美しく長い黒髪をそっと撫でた。


「僕らのうちの誰かと会ったんだよ、君は。そうだろ? アポロ」


「僕らのうちの、誰か? あなたは、一体……」


 俺は次の言葉を口にすることができなかった。詩人さんが沢山いるってこと、なのか? え? でも、似たような格好で雰囲気の詩人さんが沢山いるとしても、何で俺の名前を知っているんだ?


 詩人さん達の間で、俺の名前が話題に出た、と考えるのが自然なのかもしれない。でも、俺は別の可能性が頭に浮かんでいた。


「え? もしかして、同期って奴? あの、情報を共有するやつ? それができるんですか?」


 彼女はミステリアスで魅惑的な笑みを浮かべたまま答えない。しかし、俺ははっとした。


「あ、でも! あなたからはアーティファクト反応を感じない。って、そっか。古代魔術師とか、アーテイファクトを扱える人からはアーティファクト反応は出ないか……」


「人じゃないよ、僕らは皆植物だよ」


「え!」


 ちょっと、意味が分からないというか、情報が多すぎてわけが分からなくなってるぞ……まるでゼロに会った時の様だ。でも、ゼロは記憶喪失のアンドロイド。詩人さんは俺には分からないことを口にするけれど、おそらく彼女には自分の生活や意志がある。


 彼女は、何者なんだ? 闇葉の地下墓地のことで頭がいっぱいだったはずなのに、目の前の不思議な存在のことしか考えられなくなっていた。


 あの頃の俺にとっての、恩人と言っていい存在だ。俺に歌を物語を勉強を教えてくれた人。その人の仲間。その人と、この場で別れてそれっきりだなんて。ああ、でも! 向かわなければ! 二人の生存を、いや、俺が生きているって、二人に伝えなければ!



 静かな笑みをたたえる彼女に、俺が思い悩みながら、たどたどしく、何かを伝えようとしているがうまくいかない。この人は、いや、植物? は、俺の言葉を分かってるのか? からかってるのか? ただのマイペースなのか? あーはがゆい!! 


と、背中に声が投げつけられ、俺は振り返った


「さっきからずっと何をしているんだ? おかしくなったか、魔物の魔術にでもかかっちまったのかい?」


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