第七章 あんた、普通の冒険者じゃないね
あんた、普通
自分が寝入ったことに気がついて、はっとして目が覚め、慌てて全身を動かす。当然身体は俺の命令通りに動く。
助けられて、また捕まったとしたらさすがに笑えない。そう思うと苦笑が漏れた。
森の中からは夜の気配が消え差っていた。大きな木の根っこの上に置かれたコンパスは光を放っている。
俺はそれを手にすると気合いを入れ、ゆっくりと光の指す方へ歩き出す。
蓮さん達は何事もなく目的地に向かっているのだろうか
もし俺のことを探していたとしたら
というか、確実に二人は俺を探すはずだ。それなのに出会ってないということは…
最悪な考えが頭をよぎる。でも、それはあり得ないはずだ……
もしかして、俺は意識を失うと共にワープしたか連れ去られたのか? それとも地震の影響で俺の捜索が困難になったとか。二人には翼がないし、地形が大きく崩れたとしたら、俺が近くにいたとしても見落とす可能性がある。
その時、俺は自分の捉えられていた周辺で、蓮さん達が捕らえられている可能性にようやく行き当たった。
助けてもらうとか合流するとかばかりが頭にあって、二人を助けるという選択肢が出なかった。そして、今からあの場所に戻るのは困難だ。
再び自己嫌悪に襲われて情けなくなる。でも、くよくよしてなんかいられない。可能性ばかり考えても事態は解決しないんだ!
俺はコンパスの先で仲間と再開するんだ!
そんな風に、気持ちが落ちたり上げたりしていると、妙な音がした。
森の中から、ものとは明らかに違う異音。
……これは、金属音? 機械音? そういう類の、耳に刺さるなんだか不快な音だ。
俺の心臓は早鐘を打つが、気持ちを落ち着けアーティファクト反応を探る……と、何も感じない。どういうことだ? でも、近くに機械があるってことか? 紋章の力が十分に発揮できないであろう場所で、一人で機械と戦えるのか?
俺は迷いながらも、早々に決断をせねばと思い直す。大きな声で誰かいるのかと叫んだ。すると、森の奥から、両手に奇妙な金属の棒を持った男が現れた。
濃い紫のターバンをかぶり、顔があまり見えないが、歳は三、四十代といったところだろうか。背は俺より低く、ずんぐりとした体形だ。ポケットがたくさんついたベストを着て、両手には金属の棒、背中に大きなリュック。
男は俺をじろりと見て言う「あんた誰?」
少し、返事に困った。簡単に彼を信用していいものだろうか。でも、彼から何か聞けるかもしれないから、アクシデントで仲間とはぐれてしまったことと、闇葉の地下墓地に向かっていることを告げた。すると男は「へーそうなんだ」とあまり興味なさげに返した。
「誰か、俺がはぐれた……サムライや金髪の少女とすれ違いませんでしたか?」
「ないね。俺は魔物にも会ってない。それにさ、この大陸に動物はそこそこいるみたいだけど、そこまでの凶悪な魔物がいるなんて聞いたことないけどね」
多分、彼は嘘をついていないような気がした。アカデミーからロ・キュイジヌに向かう事前情報で、凶悪な魔物やらつるの罠? みたいな情報は無かったはずだ。あの、白い謎の男についてはよく分からないけれど……
逆に俺は彼に質問をしてみた。どうしてここにいるのかって。すると彼は右手の棒を軽く振り、にやりと笑う。
「ダウジングだよダウジング。ここには良質の鉱石があるんだよ」
「ダウジング?」
「はあ。わかってないなー。こんな辺鄙な場所に来てるくらいなのに、そんなのも知らないの? こういう特殊なロッドとかペンデュラムを地面の上で揺らして、目標のブツを探すんだよ」
その時俺は、サファイアドラゴンの試練の為、鉱山でジェーンがカンディという魔法を使ったことを思い出した。
「あー。カンディで探すみたいなものですか」
すると、なぜか男は怪訝な眼差しを俺に向ける。
「カンディってのは、人の居場所を探す魔法で、かなり高度な魔法だよ。なんでそういう発想が出てくるの?」
そうだ! あの時探していたのが、生命反応を秘めた特殊なサファイアだから、カンディで応用できたんだ。でも、鉱石に詳しい男にその詳細を話すのは、ためらわれた。何を詮索されるか分かったもんじゃなし。それにサファイアドラゴンのことは俺じゃなくてエドガーのことだし。
俺が黙っていると、男はぼそりと「あんた、普通の冒険者じゃないね」と言って来た。
の冒険者じゃないね