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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第八巻 声無しの桂冠詩人と賛美の名を持つ堕天使
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第四章 どうしようもない

 地鳴りのような轟音が鳴る。身体全体もそうだけれど、羽がとても重く、細かい振動で痺れて気持ちが悪くなってくる。


「ら! ……し……てくれ! ……か!」


 蓮さんが何かを懸命に伝えようとしてくれているけれど、何が原因なのか分からないが、重低音のせいでうまく聞き取れない。


「平穏をもたらす神リースよ 疑念を、疑惑を、邪悪を、不浄を払いたまえ エン・ディスペル!!!」


 一瞬、地面の揺れが止まった気がした。しかしそれは気のせいようで、揺れは収まらず、俺の両足も身体も自由にはならない。あれ? でも、何で今の詠唱がはっきり聞こえたんだ? あれは、スクルドの声だよな? 


「スクルド!!」


 俺は大声でそう叫んだつもりだった。しかし、それは声にはならない……らしかった。一体どうなってるんだ? 動けない、喋れない……それが意味することは……

 そんな恐ろしい考えを吹き飛ばす、蓮さんの檄が飛ぶ。


「アポロとスクルドは自分の防御だけを考えろ! 僕らを攻撃している相手は『つる』か『つた』で、僕らの身体を絞めつけている! 相手の出方が分からない! 攻撃は僕がするから動かないでくれ!」


 俺は「はい!」と大声で返事をした、つもりだった。それは、おそらく声になっているはずで、しかし喉元には違和感。太陽の紋章に力をこめ、喉に手をやる。すると、ゲル状の妙な感触があり、熱を持った手でそれを剥ぎ取ると、同時に自分の身体が軽くなる。


 羽が、足が、自由だ。全身に血が通ったような感覚。身体が熱を持ち、思わず顔がほころぶ。


 ふと、蓮さんの言葉が頭に浮かぶ。つる か つた。


 しかし俺の視界にはこれまでと同じ森の風景しか映っておらず、こちらに害をなす植物らしきものは見当たらないのだが……


 上空からこの状況を見れば、何かが分かるのではないだろうか。そう思った俺は翼に力を込め、飛翔する。


 いや、飛翔しようとした、というのが正しいのだろうか。飛んだ? はずなのに、視界は開けず、いやそれどころではなく、俺の翼が、羽が重い。


 重い、いや、眠い。変だ。必死で自分の意識を保とうとする。奥歯を食いしばり、気合を入れなおす。なのに、身体から力が抜け……


 自分の身体の重さを感じるのと同時に、俺は意識を失った。


 それに気づいた時、俺の視界には蓮さんもスクルドもいなかった。しかも、俺の身体は動けないまま。


ここは……森だ……視界に広がる景色は、依然として生い茂る森の中。みんなはどうなったのだろう? それに、こんな無防備な状態で、俺はなんで殺されていないのだろうか?


 分からないことが多すぎる。突然の地鳴りも、見えない植物による拘束も、俺が生き延びていることも……


 俺は起き上がろうとして身体を動かす。それはいつもしている動作だった。なのに、身体が自分の自由にはならなかった。足一本どころか指一本も動かせない。おまけに手の甲の紋章に力をこめようとしてもかなわない。


 生まれる、恐れ、焦り。俺は無防備で、意識がはっきりした後もその力も行動も奪われている。


いつも通りに頭は回るらしい。なのに、何で身体だけが自由にならないのだろう?


 誰かが俺達を殺す目的で罠をしかけたということではないのか?


 でも、だとしても、このままの状態だと殺意がないらしい誰か以外の脅威、あの異常な兎のようなモンスターや、野生の動物に喰われることも考えられる。


 森は相変わらず静寂を守ったまま。俺は何度も身体のそこかしこに力を込め、何とかこの拘束から自由になろうともがく。もがき続ける。なのに、何度やっても何も変わることはなかった。


 念じてみても、魔力感知をしてみても、身体を動かそうとしてみても、魔力をこめてみても、何も形を結ばない。俺の手にはアーティファクトがあるはずなのに、それらを起動することもできない。


 自分の無力さ加減に嫌気がさす。おまけに、蓮さんが危険だからその場を動くなと忠告してくれていたのに、後先考えずに飛び出して、このざまだ。情けない。ぶつけようのない怒りと羞恥。


 何か、俺にとっての脅威でもいい。変化が欲しいと願う。じっと見つめる森の暗部から、何かが飛び出してくるような気がしてくる。俺をかみ殺す何かが。


 そんな愚かな思いが頭に浮かんでも、状況は何も変わらない。


 ただ、太陽の外套の力は発動していないらしい。ルディさんの話によると「恐るべき災いに見舞われた時に、この太陽の外套が自動的に所有者の全身を守るバリアになり、砕け散る」ということで、身体の自由が奪われたとしても、その場で命を脅かすようなことはない、ということだろうか?


 ただ、この状況が何日も続いたなら、餓死してしまうだろう。それに、俺が魔法を封じられている状況で、アーティファクトが俺を守ってくれるのかは分からない。確かめることもできない。


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