表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第二巻 機械仕掛けの天使と 永久の別れ
19/302

第六章 センチメンタルな船旅 新しい大陸

ほら、ただ海の風に触れているだけで、気持ちがいい。ちょっとよくないかな、とも思ったが、翼を持っている種族自体はそこまで珍しくないし、俺は翼を広げて全身で風を受ける。気持ちいいなあ。俺の種族はどんな風な生活をしていたのかな。どんな風に飛び方を教えていたのかな。結婚は同じ種族同士じゃないといけないのかな。


 物思いにふけりながら、自室に戻ると、二人とも寝ている! この二人は寝られる時はいつまでも寝ているのだろか!? というか、単に船の中で何もすることがないからかもしれないが……

 

 そんなこんなで一日目は終わる、のだけど、夜の海が見たくて俺は外に出る、と、見上げると空には満天の星空。何も余計な物がない、静かで光の中の世界。船先に、エドガーがいた。また余計なことを言って怒られる、かと思って帰ろうとすると、


「おいアポロ、何逃げようとしてるんだ、こっち来い」うう、この人は本当にもう勝手だな! 俺が従って船先に行くと、エドガーはほんのり顔が赤く、ウイスキーの瓶を片手にして、歌い出す。



Let's get lost/Chet Baker  レッツ・ゲット・ロスト/チェット・ベイカー




Let's get lost, lost in each other's arms


消えちまおうぜ、 手に手をとってさ。


Let's get lost, let them send out alarms


消えて、 みんなを大騒ぎさせよう。


And though they'll think us rather rude


そして、みんな俺らをかなり不愉快に思うだろうけどさ、


Let's tell the world we're in that crazy mood.


俺らがおかしい位の人間だって、世界中に知らせるんだ。


Let's defrost in a romantic mist


ロマンティックなもやに隠れて二人で溶け合おう、


Let's get crossed off everybody's list


みんなの名簿から俺らの名前を抹消してもらおうぜ。


To celebrate this night we found each other, mmm, let's get lost


俺らがお互いを知ったこの夜を祝うために、消えちまおう






少し哀愁漂うのに、甘く、切ない、というか、俺は大して歌を歌う人を聞いたわけじゃないが、やっぱり、エドガーはうまい。抜群の歌唱力があるとかいうわけではないけれど、独特の甘い声が、男の俺でさえうっとりさせる。そのことをエドガーに言うと、


「俺さ、ほんとにガキの頃は歌手になりたかったんだよ。ピアノとかバイオリン習ってたし。もう忘れたけどな! でも、この図体で甘ったるいひょろい二枚目の声とか、自分でもなんか居心地悪くてな。それに、俺には剣術が一番だ。まあ、でも、たまに、夜になると歌いたくなるんだよ」


「いい、話しだね。俺、そう言うの無いから、羨ましいな」するとエドガーはなぜか俺の頭をくしゃくしゃになでなでして、


「お前、出世するぞコラ!」う、酔ってるのかこの人は! 意味が分からん! でも、エドガーは普通のトーンで、


「まあ、お前がもっと一人前になったら、この歌は今使われていない『英語』という言葉の歌だけど、教えてやってもいい。気持ちいいぞ、歌うのは」


「ほんとに! ありがとう! でも、一人前っていうのがいつになるのか怖いけど、教えてもらえるの、楽しみにしてる!」


「そうだ、お前はあと酒ももっと飲めるようにならなきゃ、俺の相手は務まらないぞ、まだ馬車馬のように働いてもらうんだからな、アポロ君!」


 本気なのか冗談なのか分からなくてちょっとこわいけど、でも、楽しみだ。歌を歌いながら飛んだら、きっと楽しいだろうな。


 その後はひとりたそがれるエドガーを置いて、俺も船室で眠りに落ちた。


 次の日も快晴! 順調にいけば夜にはエンゲージ大陸の港町ロッコに着く。俺にとっては初めての別の大陸だ! それだけで何だかわくわくしてくる。風も昨日と同じようにふいてるように思う。たった二日だからかもしれないが、こうやって海風に身をまかせてぼんやりするのもいいものだなあ。


 甲板に出てきた蓮さんに、ロッコってどういう感じなんですかねえと話しかけてみる。


「エンゲージ大陸に着たことは数回あるが、ロッコは小さな港町かな。ギルド自体も小さいはずだから、多少心配なのだが、ここまで来たら行くしかないな」


「そうですね。そういえば天使ってどういう存在なんだろう」


 すると蓮さんは顎に手を当てて「ふむ、実は僕も現物を見たことはないんだ。エドガーは何度か目にしたり、短い間だが、一緒にパーティを組んだことがあるそうだが、それぞれの天使ごとに厳しい宗派の決まりごとがあるらしく、結構気難しいというか、個性的な天使が多かったらしい」


「な、なるほど。確かに、天使だからって、全員が同じ神様を信仰している訳ではないだろうし、天使だって色んな人……考えの天使がいるでしょうしねえ……」


「そうだな。でも、もし可能なら、同じ翼を持つ、飛天族の仲間なんだ。何かヒントを教えてくれるかもしれないな」


「あ! そうでした! 種族が同じなんて珍しいし、何だか気難しそうな人たちですけれど、機会があったら、飛陽族のこと、聞いてみたいと思います!」


 おー、確かにそうだ! 楽しみが一つ増えた。天使っていまいちどんな人たちか分からないけれど、話せたらいいな。


 船は順調に進み、予定通り夜にはロッコについて、俺達はすぐに宿をとった。蓮さんが言っていたように、夜の港町なのに、あまり盛り上がっている感じはしなかった。


 そして、翌日ギルドに向かうと、十数人の冒険者が並んでいて、それらが全員あのクエストに挑む人たちだと気づく。その中には、あの船上で話した冒険者の人もいた。俺らの番になると、緑色の小さな石をもらって、


「これをコンパスに入れると、里への道しるべになりますから。半日かかりませんよ。それでは、次の方」


 随分雑な対応だなあ、と思いながら、外で待っていたエドガーと蓮さんにそれを告げると、

「いよいよきな臭くなってきたな」とニヤニヤ笑いのエドガー。とにかく俺はコンパスに石を無理やりはめ込もうとすると、ふしぎなことに、すう、と石が吸い込まれ、緑色の透明な光がコンパスから発せられた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ