表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第七巻 空中都市のアカデミーと運命の三姉妹
185/302

第五十二章 修羅と飛揚族

 夕食の時間になり、全員が集まり食事をする。その最中、さらりと「明日の昼にアカデミーを出る」という話題になり、反対する者はいなかったので、それは決定された。

 その後はいつものように穏やかな夕食が続く。エドガーがいないから静かではあるけれど、姉妹は時折楽しそうにお喋りを交わしている。ルディさんとスクルドの様子に何も変化がないような気がするんだけど、二人共しっかりしているなあ。


 俺なら、不安やらわくわくやらが顔に出てしまう気がする。


 ルディさんに大丈夫だと言われたのだけれど、多分最後の皿洗いをちゃちゃっとすませ、部屋に戻る。これからまた厳しい旅になるかもしれない。だから色々考えずに眠りにつく方が良い。


 そう思ってはいるんだけど、何だか眠りにつけず、枕元に置いていたハープを手にする。

 

 俺はベッドに腰かけると、そっとハープの弦に触れてみた。自然と指先が動き、流れ出すメロディ。知らないはずなのに、心地良いメロディ。


 と、ドアがノックされた音で我に返る。そうだよな。夜中に音を出すのはいけない。俺は慌てて扉を出し、すみませんと頭を下げた。そこにいたのは、蓮さんだった。


「すぐすむ。少し中で話をしていいか?」


「あ、はい」と俺が反射的に答えると、蓮さんは部屋の中に入り、扉を閉めた。蓮さんは部屋の中ほどに進むと、立ったまま俺を見る。


「どうかしましたか?」


「うん。言うべきではないかもしれないと、少し迷ったが……」と言いよどむ蓮さん。俺は「はい……」と小声で返す。


「ルディとスクルド。ひいてはアカデミーについて、ちゃんと話しをしておかねばならないと思った」


「アカデミーや彼女たちに? でも、もうすぐここから出ることになりますが……」


「そうだな……」と蓮さんは少しばつが悪いような顔をしてみせた。


「単刀直入に言う。僕とアポロは、世界の秩序を壊す存在になりうる。だから、自らの意志の為に、気を強く持たねばならない」


 その言葉は衝撃的なものの、はずだった。なのだけど、俺は案外冷静にその言葉を受け取っていた。


 俺はルディさんに近いことを言われたこと。俺に指輪がはめられていることを告げた。


「それは、今後もアポロが力を制御され、おそらく監視下にも置かれているということかもしれない」


「監視下って……同行するスクルドが……? だとしたら、なんで蓮さんはそれを受け入れたんですか?」


 思わず自分の声が大きくなっていることに気づいた。


 姉妹が、彼女が演技をしている? そんなわけはない、でも、俺は彼女たちのことをそこまで知っているわけでも、アカデミーについて深く知っているわけでもない。


 それに、蓮さんだって今の俺の発言から連想して、監視下という言葉が出てきたのかもしれない。


「でも、彼女たちが、そんな……」


 思わずこぼしてしまった弱音に、蓮さんは穏やかな声で返した。


「アカデミーやここにいる人達が、僕らに力を貸してくれているのは事実だ。その点は深い感謝をしている。彼女たちの良心を疑うわけではない。ただ、僕やアポロは彼女たちの良心、法と秩序によって、裁かれるべき対象になることもありうることを、忘れてはいけないのだと思う」


「そう、ですね」と俺は口にした。そこまで、深く、俺は自分の力について考えてはいなかったのかもしれない。ルディさんにした返事も、自分が本当に悪いことは行うわけがないと、そう、大して根拠のない確信から出た言葉だ。


 俺は、自分の力について、まだ多くを知らない。使いこなせていない。


 でもやっぱり、俺は誰かを不幸にするような力を使いたくはない。これだけははっきりとしている。


「蓮さん。忠告ありがとうございます。俺は自分自身の能力について、はっきりと返事ができないこともあります。ただ、俺は自分の選択で誰かを傷つけたくない。それは変わらないです。これからも、きっと」


 蓮さんは軽く首を縦に振る。


「うん。ありがとう。そのことを胸に置いてくれているなら、それでいい。余計な助言かと思ったが、アポロは優しい。その優しさのせいで、どうか辛い思いをして欲しくない」


「え?」


 蓮さんは少し顔に笑みを浮かべる。


「一応言っておくが、僕はルディともスクルドとも仲良くやっていきたいと思っているんだ。勿論アポロとも。これからどのくらいか、三人で旅をすることになる。信頼で結ばれていないパーティは、必ず足枷になる。僕らはそうではないと思っている。自分の力を認識して、自分の思う正しさのために使う。アポロはそれができると信じている。それじゃあ、また明日。夜分失礼した」


 蓮さんはそう言うと足音も立てずに遠ざかって行った。俺は再びベッドにこしかける。


 俺は少し緊張していたらしい。ぼーっと壁を眺めながら、自分の気が楽になったことを意識する。蓮さんは、多分色んな相手から「裁かれ」そうになってきたんだ。だから、俺に忠告をしたのだろう……

 

 誰かが、俺の能力の話をしたのか? それとも蓮さんが教授たちとの会話から感じ取ったのか。蓮さんがその言葉を口にした原因は分からないし……分かったって仕方がないよな……


 でもな。俺、自分が危険な存在とか、そういう自覚に薄いのかな……


 だってさ、俺、冒険したいだけで、夢中で色んな事に巻き込まれてなんとか這い上がって生き延びてきたというか……


 ふと、自分が蓮さんやエドガーと戦う姿を想像して、血の気が引いた。どうやっても勝てるイメージが浮かばないぞ!


 でも、そんなことなんてない。先のことなんて分からないけどさ。そう強く感じるのが、何故だかうまく説明できないけど。


 自分の力を認識して、自分の思う正しさのために使う、か。


 やろうとします。いや、やります。そう強く思って、俺は今度こそベッドに身体を任せた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ