第五十一章 虹のつまった指輪
マルケスは言いよどんだ。頭に手をやり、薄紫色の髪をいじり、その手で小さなバッグから、小さな指輪を取り出した。
「これは?」
「僕が作った」
彼の手のひらにあったのは、乳白色のリングで、、光の加減で七色に変化する、小さな丸い宝石がはめ込まれていた。
「こんなのも作れるんだ! すごい! この宝石も作ったの?」
「そうだ」
「へー! マルケスは細工職人にもなれるよ!」
「まあ、僕なら大抵のものになれるよ。それで、この指輪は、精霊を呼び出し使役する力がある。もっと正確に言うならば、精霊使いやシャーマンの技能である交信の力を得るということか。虹のつまった指輪だ。中々だろ」
そう言うと、マルケスはそれを俺の手に握らせた。
「ん? どうしたの? え? くれるってこと?」と俺が半信半疑で尋ねる。
「あげないよ」
「え。じゃあどういうこと?」
「貸すんだ」
「貸してくれるというのは嬉しいけれど、でも、俺もうすぐアカデミーを出なければならないんだ。だからさ、ありがたいけれど、受け取れないよ」
「だったら返せばいい」
「いや、だからさ! マルケスも分かってると思うけれど、こんなこと言いたくないけどさ! 返せない可能性もあるだろ! もし、そうじゃなくても、いつアカデミーに帰ってこられるかも分からないし……」
「だから、返すんだ。悪いけど僕は忙しい。出発の際に見送りには行かないよ。実技試験の課題が発表されたんだ。純度が高いミューシ結晶の精製をしなくちゃいけない。アタノールにつきっきりにならなきゃいけないから、時間が惜しい。それじゃあ」
マルケスは言いたいことだけ口にして、俺に背を見せ歩き出す。なんだ? 勝手な奴だ! まあ、そういう奴だって分かってるけどさ……
俺の手のひらには、虹のつまった指輪。淡い光を帯びたそれ。小さな宝石は七色の輝き。
「あ、ありがとう!」俺は、そう大声でお礼を口にしていた。マルケスはぴたりと立ち止まり、俺の方を見ずに片手を上げ、手のひらをひらひらと振り、また歩き出して行く。
ちぇっ。素直じゃないというか、子供っぽいというか……
でも、ありがとう。戻って必ず返すよ。今度は俺がお土産持ってさ。
色々な人からもらってばかりだ。それが嬉しくも気恥ずかしい。俺も、みんなの力になりたいし、なるからさ。ゼロ。待ってろよ。俺は再び決意を新たにする。小さな指輪を小指にはめ、もらったアーティファクトのことを思いながら部屋へと向かう。