第四十四章 どこへ?
「プロジェクト・ゼウスについてはこちらでも調べていきます……アポロはこれから、今以上に様々な人に出会い、様々な困難にぶつかることでしょう。貴方の仲間と、アーティファクト、そしてアポロの意志に祝福を」
ルディさんはそう言うといつもの笑みを浮かべた。俺はお礼を言って、二人でゆっくりとこの場を後にする。
そうなんだよな……様々なアーティファクト、俺の力<調律>と<同期>、プロジェクト・ゼウス、そしてあの天人……問題は山積みというか、アカデミーに来て分かったことがあるけれど、それ以上に分からないことも増えてきた。一筋縄ではいかないけれど、焦って解決することでもないもんな。
ルディさんと別れた俺は、ぼんやりとベンチに座って、そんなことを考えていた。とにかく、俺が新しいアーティファクトの力を得て、パワーアップしたというのは間違いない。そうだ、太陽の外套は試してみたいな。
なんて思って、広そうな場所というか、深く考えずにトカシアの工房へと向かう。すると、ばったりとマルケスに出会った。彼の手には俺のハープ。俺は気軽に、彼に何か分かったかとたずねた。すると、マルケスは固い顔をして、俺にハープを押し付けた。
「分からない。正確に言えば、これが楽器ということしか分からない。バード、吟遊詩人が使用する楽器として、特筆すべき『なにか』を見つけることができなかった。僕の、負けだ」
俺は押し付けられたハープを受け取る。それにしても負けだなんて……優秀なマルケスには悔しいのかもしれないけれど、何でもかんでも分かるって言うのはないだろうし。
「まあまあ、俺さ、さっき新しいアーティファクトをもらって、それを使ってみたいんだ。だからさ、まだこのハープを調べていてもいいよ」
俺はそう言ってマルケスを慰めるのだけれど、彼の表情はやはり硬いまま。
「駄目だ。だって、アポロはもうすぐアカデミーを出る」
「え!」
思わず俺は大きな声をあげてしまった。どういうこと? マルケスは何を知ってるんだ? 俺がマルケスに詰め寄ると、なぜか彼はつまらなそうに言った。
「このアカデミーが移動しているのは知っているだろ。セレニア大陸が近いんだ」
「え? その、セレニア大陸でまたこのアカデミーが停泊? ええと、一時的にとどまるってこと?」
「とどまるというか、君らだけポータルでアカデミーから大陸へと移動する」
「だから何で?」
「僕も詳しくは知らない。ただ、スクルドがそう言うんだ」
「え、またお告げ……預言を受けたってこと?」
マルケスはため息をついて「そういうことだろう」と力なく言った。それにしても急展開だな……あ! もしかして、スクルドが俺達と同行するって決まった時から、どこかに行くは分かっていたってことだよな。だって、目的地、目的があるって彼女は言ってたし。
とにかく、スクルドに会わなくっちゃ。それと、蓮さんはこのことを知ってるのかな。アカデミーに来てから、何故か蓮さんと会わないんだよな。何してるんだろ。
俺が色々考えていると、マルケスが無言でどこかへ向かっていた。なんか、マルケスの様子もおかしいな……あーでも、今はスクルドか蓮さんに会うことを優先したい。でも、二人はどこにいるんだろう?