第四十二章 太陽の外套
「このブレスレットは、太陽の外套と言います。光の魔法、ライト・フィールド、ライト・シールドに相当する力を秘めたアーテイファクトと言えるでしょう」
「えーと、すみません。その二つの魔法の説明を聞いてもいいですか?」
「分かりました。まず、ライト・フィールドは、その能力者の魔力に応じた広さの空間を浄化する魔法です。浄化は特に、闇の魔法の効果を打ち消したり、不死なる存在、アンデッドの魔物の力を弱めたりすることができるでしょう。単純に、その空間を明るくするのにも使えますが、毒を浄化する力は、空気、風の領域にある魔法に比べると弱いです。闇の瘴気にはこの魔法が効きますが、風や樹木の魔力で生み出された毒素には、同じ力か水の領域の魔法が効果的でしょう」
「次にライト・シールドですが、これは光の盾を生み出す魔法です。全ての攻撃の盾として利用できる便利な魔法です。能力者の魔力に応じて、その盾の防御力、耐久力、範囲が変化します。また、その形を変化することもできます。近接戦闘になった際にはスモールシールドのような大きさの、防御力の強い楯を生み出し、逆に遠くからの攻撃に対しては、自分の目の前に、力は弱まりますが壁のような光を生み出すこともできるでしょう。ライト・シールドの利点としては、他の魔法、魔力によって生み出した盾よりも、防御できる物が多いことです。光の力で様々な攻撃を無効化することができるのです。ただ、同じ光の力の攻撃に対してだけは、極端にもろくなってしまいます。強力な光の力を攻撃に使える者は限られていると思いますが、覚えておいてください」
それは、どちらの能力もとても便利そうだ。前にジェーンと話したけれど、光の領域の魔法が使えるというのは、この先必ず助けになってくれることだろう。何より、俺達のパーティでは防御手段が限られていたから、このアーテイファクトはちょうどいいぞ!
光の力での攻撃には弱いらしいが、それを使ってくる敵は少ないだろう。それに、全ての力から身を守るなんて、それこそ無理な話だろうし。
ふと、光の力を使った攻撃ということで、エドガーのお父さん、フォルセティさんの姿が頭に浮かんだ。蓮さんとの死闘……いや、演習の、鬼のような強さ……まあ、フォルセティさんと戦うなんて、そんな恐ろしいことはありえないだろうし、考えないでおこう……
「また、このアーティファクトとしての一番の能力は、このブレスレットの所有者が恐るべき災いに見舞われた時に、この太陽の外套が自動的に所有者の全身を守るバリアになり、砕け散るということです。それが、物理攻撃であっても魔法の攻撃であっても、所有者の命を守ることでしょう。しかし大きな脅威から逃れられたとしても、当然その後はこのブレスレットによる防御手段は失われてしまいます。できればこの最後の能力は意識しないように、この光の力で身を守って下さい。何か質問はありますか? いや、やはり実際に使ってみるのがいいでしょう。アポロ、やってみてください」
俺は、少しルディさんから距離を置くと、言われた通り、太陽の外套に魔力を込める。そして、この空間に光が充ちて行く様をイメージする。すると、上空に薄い光のカーテンのような物が出現し、きらきらとした光の粒を落としながら、空間を包み、消えた。
その光景が綺麗で、自分で生み出したくせに、少し見入ってしまった。これがどのくらい空気の浄化やアンデッドに対して有効かは、相手の力もあるし実戦で確かめないとな……
続いて、楯を生み出す。と、念じただけですぐに小さな楯が俺の右手の前に出現した。円形で直径50センチくらいの、光、エネルギー体で作られたシールド。左手でそれに触れてみると、温度はない。楯の厚さは10センチくらいだろうか。左手で軽く叩いてみるが、結構頑丈そう……って、さすがにこれは実践前に耐久力を試しておきたい。
エドガーは卵の中だし、頼めるなら蓮さんかな……
ふと、自分の腕まで落とされるようなことを思い浮かべてしまう。いやいやいや、ないから! それに碌典閤、裏・村正じゃなくて、角材とか木の枝とか、そういうので試してもらえばいいからね!
そう思い直し、今度は広い領域をカヴァーする楯を意識して、生み出す。
長身のエドガーよりも高く、広い範囲を守る、光の壁が出現した。俺はその場から距離を置く。でも、その壁は消えない。俺はそこに向かって、太陽の紋章に力をこめ、炎の矢を打ち込んでみた。
放たれた矢は、光の壁に吸収されて消える。おお、すごいぞ! そう喜んだのも束の間、壁は早々に消え去ってしまった。便利だけど、やっぱり防御壁としての機能は過信しない方がいいかもしれない。それか、使い続けたり俺の魔力が高まったりするならばいいのかな。
強力なアーティファクトをいただいてしまった。俺はルディさんにお礼を言った。