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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第七巻 空中都市のアカデミーと運命の三姉妹
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第四十一章 商人の寝床

ルディさんは俺を見ると、黙って、ゆっくりと頷いた。そして、部屋の中に一つ、青い白い光が生まれる。ルディさんが右手を撫でるような動作をすると、その光がルディさんの手の中におさまった。


 青白い光……ルディさんの手のひらの上にあるそれからは、アーティファクト反応を感じる。何だろ、空気? 空間? 風の魔力? よくわからないな……そこにあるのは「光」のはずなんだけれど、エネルギー体というかそういう物ではない気がする……不思議な感覚だな……


「アポロ」とルディさんが柔らかい声を出した。と、同時に、俺へと光が投げられた。俺は反射的にその光を両手で受け取っていたが……これは、光じゃない!? なんだ、これ! もしかして、穴? 穴ってなんだよ! でも、そこにあるのは穴と表現するのがぴったりな、そんな空間のような……


「え、これは」と俺が声に出すと、ルディさんは「商人の寝床です」と口にした。商人の寝床? なんだそれ? 初めて聞いた。まあ、当然だろうけれど……


「不思議な名前ですよね。これは、アーティファクト使い用の、持ち運びができる倉庫のような物です。名前の由来は、商人がベッドの上に物をずらりと並べて寝ていても、十分な広さがあり、安心して旅ができるように作られたとか。大体三立方メートル位の空間に物を保存して、持ち運べると考えてください。重量制限もないようです。液体も入れられますが、必ず容器に入れてくださいね。例えば砂漠を旅する時に水をまとめて保管するということもできますけれど、その際に井戸から水を直接この空間、<商人の寝床>に入れると、途中で水が漏れてしまったという記録が残っています。少量でしたら液体状の物でも問題ないかもしれませんが、そのまま入れるのはやめたほうがいいでしょう」


「でも、注意して欲しいのは、この中に普通の生き物は入れられないということ。機械等は平気だと思いますが、たとえ食糧の小動物であっても、中に入れることはできないようになっています。厄介なモンスターを一時的に中に入れる、ということも難しいでしょう。あくまで、物を運ぶ補助になる空間としての利用をして下さい。やり方は、こう。この光を指で広げて、のぞく。これで中が見える」


「そして、中に入れたいと念じながら手を入れて」そう言いながら、ルディさんは耳につけていた丸いピアスを片方外し、その中へと入れた。そして、両手を広げてみせる。


「欲しいときは探し物を頭に思い浮かべて、取り出す」そう言うと、光の中に手を入れ、ピアスを取り出すと、耳につけなおす。


「簡単だから、実際にやってみて」とルディさんは言った。


 だから、さっそく試してみることにした。光が、入り口であり出口でもあるということか? あまり深く考えず、手をその中に入れてみると、入った! 当然だが、中は空洞らしく、何かに手がぶつかったり温度を感じたりはしない。でも、容量は決められているんだよな。


 俺はポケットに入れっぱなしにしていた銅貨を、その中に入れてみた。そして、念じてその中に手を入れると、俺の手のひらには先程入れた銅貨が!


「これ、アーティファクトとしたら地味なのかもしれませんが、とても便利じゃないですか?」俺が多少興奮気味でそう言うと、ルディさんも微笑み、


「そうなの。だから、昔はアーテイファクト使いであり、吟遊詩人であったり商人であったりしながら、商人の寝床と世界を旅する人もいたらしいわ」


「へー。そうなんですか」


「アーテイファクト使い自体が少ないけれど、このアーテイファクトはほとんどの人が使えると思うわ。では、次にいきましょう。商人の寝床はポケットにでも入れておいて」


 ポケット? そう思いながらも、俺はズボンのポケットにその光を入れてみると、一枚の紙幣のように、するりと中に入った! しかも、ポケットの中に入ると、光は完全に消えていた。恐る恐るそれを引き出すと、手の中ですぐに光が形になって現れる。ほんと、便利だな……このアーテイファクト。

 

 はっとして、商人の寝床をポケットに入れると、また、青い光を手にしているルディさんと目が合った。今度は、ルディさんが何か小声でささやく。魔力が、その光に集まっていくのに気づく。


 それは赤い光。穏やかな熱を感じる。まるで、陽光が降り注ぐような心地よさを感じた。なんだか、それは俺が知っている温度というか、感覚というか……


 その赤い光が、形になる。それは、腕輪、ブレスレットに変化していた。銅色のブレスレットは花か草のような模様が描かれており、中央には丸い、黄色の宝石がはめられている。ルディさんは近づくと、俺の右手にそれをつけてくれた。そのブレスレットは、まるで昔からつけていたもののように、俺の腕にぴったりとなじんだ。


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