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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第七巻 空中都市のアカデミーと運命の三姉妹
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第四十章 アポロをとりまく世界

その場所は、マルケスが俺を連れて行った場所、エッグの前だった。俺がその場所に向かうとルディさんはその前にいた。彼女は俺を見ると、目で挨拶をする。そして、壁に手を触れると、そこにはぽっかりと入り口が出現した。


 中に入ると、やはりアーティファクト反応は感じない。それなのに、ここには様々な物があることはもう分かっているのだ。ルディさんと共に内部を歩く。発行する壁に再度触れてみる。やはり、ただの壁でしかない……のか?


 しかしルディさんが立ち止り、触れた壁には扉が出現していた。彼女の後を追って中に入る。そこは、何もない、広々とした空間だった。遺跡での戦闘時や、太陽の祭壇での試練でワープした空間にとてもよく似た空間だ。


 ルディさんは数歩足を進めると、こちらを向いて手を高々と掲げる。そしてその眼はまっすぐ僕に注がれていた。


「アポロ。貴方には強い力があります。それは、学園に害をもたらすものかもしれません」


 いきなりルディさんは何を言い出すのだろう。俺は頭が真っ白になって何も言葉を口に出せなかった。


 でも、彼女が言っていることは分かる。俺がプロジェクトゼウスに関わっていたとしたら、いや、そうでなくても正体不明のアーティファクト使いなんだ。


 だからといって、俺は旅をやめるつもりはない。それに、ルディさんが誤解をしているなら、ときたい。

「ルディさん、俺は愚かな力の使い方はしない。そのことは信じて欲しい」


「私も、信じています。そして、それを証明してほしいんです……いきます」


 ルディさんは俺から眼をそらさず、頷いた。そして掲げていた手をゆっくりと降ろす。すると、周囲にはすさまじい数のアーティファクトが出現し、俺の、右手の甲が燃えるように熱くなる。俺の、紋章が、今まで感じたことがない光を持ち、燃えた。


 比喩じゃない。俺の右手は燃えていた。俺は絶叫していた。わけがわからない。強大な、しかも無数のアーティファクト反応と、自分の手から生じている力、熱。それに俺の身体は振り回され、とても正気ではいられない。


 何か、欲しい。何が? この熱を冷ますもの……


 深く、息を吐く。身体の熱が、吐き出されているかのような、不思議な感覚。全身に痛みが走っているはずなのに、それが不快じゃないような気がするのだ。俺は、再び大きく息を吸い込み、吐く。


アーティファクトは、俺の敵じゃない。何故だか頭にそんな言葉が浮かんだ。そうだ。アーティファクトはいつも俺を導き、助けになってくれていたのだ。


 はっと、した。燃えていたはずの右手が、普通に戻っている? と、指にはめていたキャッツアイのリングが音をたてて粉々になっていた。


 驚く間もなく、俺の指には、代わりに銅のシンプルな指輪らしきものがはまっていた。恐る恐る自分の指に触れる。先程まで熱を持っていたはずなのに、やけどの跡一つない。緊張のせいかなんだか熱っぽい気がするけれど、多分、身体は正常だ。


「試すような真似をしてごめんなさい。でも、アポロ、飛揚族の貴方なら、ここで炎に喰われないと信じていました」


 え! てことは、俺は炎に喰われていたかもしれないの? うまくいったからいいけど、ルディさんの学長としての、俺が知らない一面を目にした気がして、熱を持っていたはずの身体に冷たい物が走った。そして、俺はルディさんに質問をした「飛揚族とは何か」と。


「それは、あなたが旅をするうちに、必ず知ることになるでしょう」


 それって何も答えてないってことだよね。そう思ったが、これ以上聞けそうにないので大人しくだまる。


「じゃあ、この指輪は……」


「それは、アポロの力を制御する為の物です。アポロが、余計な、過剰な物に同期しないための」


「同期……?」


「はい。アポロの力は私が最初に思っていたよりも、ずっと強大です。アポロが使い方を間違えたなら、この先、このアカデミーが歴史に残る体力殺戮都市に姿を変えても、何もおかしくない」


「でも! 俺はそんなことはしない! 信じてください!」俺は大声でそう口にしていた。ルディさんの表情は、先程から全く変わらない。彼女が何を思っているのか、正直、分からなかった。歯がゆい。でも、仲良しこよし、みたいなきれいごとだけではやっていけないのは分かる。彼女はアカデミーの学長。俺は、何かの力を持つ、正体不明の青年なのだ。


「信じています。でも、貴方が別の人格になることも、別の生命として目覚めることも、誰かに操られることも、考えられない話ではないのです。それは、いますぐ起こることではないと思います。でも、私はせっかく知り合った友を、殺戮機械にするわけにはいかない。そして、貴方の旅の手助けをしないわけにもいかない」


 え? それはどういう意味だ? 俺にそんな疑問が浮かぶと、ルディさんはこの場で初めて微笑を見せた。


「幾つか、贈り物があります。この場所は学園の全てのアーティファクトにアクセスができる場所。アポロが必要なアーティファクトに出会える場所。勿論、貴方が今は、まだ、出会うべきではない物もあります。その銅の指輪は、アポロの身体と、ここにあるアーティファクト、どちらをも守る存在です」


「これがあると、同期しないってことですか?」


「近いです。同期を阻害するわけではないのですが、アポロが大きな存在、自分の中の一部か、世界に『ズレ』を生むようなアーティファクトに反応したり力を開放したりする前に、警告をします。そして、それを解き放つ前には防御膜のような、命綱のような役割を果たすでしょう。そして、もう一度約束してください。貴方は自分の力を、決して破壊や殺戮の為には使わないと」


「分かりました」と俺は返事をする。元からそんなつもりはない。ただ、自分が自分じゃなくなるというような表現はひっかかる。でも、俺はそんなことを恐れていない。先のことは誰にも分からない。絶対なんてことはないはずだ。でも、俺は力強く自分を信じることで、前に進めるんだって、間違ったことはしないって思うんだ。


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